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メルセデス・ベンツ「ウニモグ」が世界一万能な作業車と言われる理由

半世紀以上の実績が育んだ「多目的作業用車」

「ウニモグ」の意味はドイツ語”UNIVERSAL-MOTOR-GERAET”の頭文字を取ったもので、いわば多目的作業車の略。筆者は1973年の5月、初めてウニモグが登場する映画を見せてもらい、大いにこの「怪物」に興味をもった。当時の映画の解説は次のように伝える。

『走るだけでは驚くにあたらない。この車は1000種にも及ぶ特殊な仕事をやってのけるのが目的。それがウニモグの価値なのだ』と。

 というわけで、今回はメルセデス・ベンツの万能作業車「ウニモグ」を肩の凝らない画像を中心に紹介したい。

 

フレキシブルに対応するユニーク機構の数々

 ウニモグは従来のトラクターの概念を全く破った革命車であり、そのユニークな雄姿は多くの特徴を生み出した。例えば、「多目的作業型ウニモグ」と「高機動型ウニモグ」の2種類があり、目的によって使い分けられている。 つまり、アタッチメントをつけることで草刈り、除雪、凍結防止散布等の様々な作業ができるのが「多目的作業型ウニモグ」、悪路などオフロードを走る事を得意とするのが「高機動型ウニモグ」だ。

 また、高速道路では90km/hを走り、特別装備の前進24段と気の遠くなるようなミッションや「クローリングギア(低速ギア)」を持ち、赤ん坊のよちよちと歩くよりも遅く走る事も可能。実際に、標準走行モードは”ウサギ”、低速走行は”ロバ”、超低速走行は”カメ”と、モードを切り替えるマークのスイッチが付いているのもチャームポイントのひとつ。 さらに「電空式シフト」を採用した独自のトランスミッションは、標準で前進8段、後進6段からなる多段式ギアを採用し、あらゆる作業環境に適合。特筆は、ドライバーが常に最適なシートポジションで運転できる可変式ステアリング・ハンドルを採用し、左右のハンドル位置を任意に使い分ける事ができることだ。

 しかも45度の山登りはラクラクと、38度の傾斜地、34度の脱出角度、44度の侵入角度と51度の脱出角度、横ばいは当然のこと。階段を登ったり、ある時は雪の中はもちろん、大人の腰位の水中水泳で魚を驚かせることもできる実力を持つ(1.20mの渡河走行深度)。

 そして、独自の「スラスト・チューブ構造(下写真)」は斜め30度までスイングする柔軟なフロントアクスル/リアアクスルで実現。四輪駆動、四輪ノンスリップ装置からなる足回りは、道なき道を走破する。すなわち、スピードは乗用車並み、頑丈さはダンプトラック並み、1000種類以上の豊富な作業用アタッチメント、4ヶ所の装着ポイントにより1台で多種多様な用途に利用可能。ジープなんぞは足元にも寄せ付けない機動性を兼ね備えたクルマといえるだろう。

 もちろん、これだけではなく、ウニモグには前後にPTO(動力取出軸)、レバー1本で1トンもある作業機の昇降を自由にする油圧機構を採用。1000種類以上におよぶ作業機を正に弁慶の如く、軽々と身に付け、萬屋(よろずや)としてその目的を遺憾なく発揮しているのだ。

日本国内においても数々の現場で活躍

 ウニモグの実力は日本でもいかんなく発揮している。例えば、1972年の冬季札幌オリンピックでは道路除雪車として大活躍。高速道路のトンネル壁面清掃や照明器具の保守、維持管理車のみならず、JRA(日本中央競馬会)では馬場のメンテナンスにも愛用されている。

 また、テレビの山岳中継車として記憶に残る浅間山荘事件をはじめ、ニューストピックスな現場実況の報道をいち早く家庭に送る役目としても活躍。また、山林火災工作車として山地林道の火災パトロール、警察の災害警備用車両、消防車として時には人命救助にも大役を果たし、鉄道の保守用軌陸車としても使用されている。最近では2011年春、ダイムラー社から東日本大震災の被災地支援目的にトラックタイプの「U4000」「U5000」を各2台ずつ、計4台が日本財団に寄贈され、復興に偉大な力となった。

 

ウニモグ誕生と日本との関係

 最後にウニモグの歴史について触れてみたい。1945年秋、ドイツのダイムラー・ベンツ社で航空エンジンの元開発責任者をしていたMr.Albert Friedrich(アルベルト・フリードリッヒ氏)が、農業用車両として最初に図面を描いた。その後、工学関係者と農学関係者の緊密な協力により、ウニモグの原型的なデザインを元にして、原料不足その他、様々な困難を克服して進化してきた(下写真はU400ウニモグ)。

 1946年に「Erhard und Sohne社(エルハルト&ゾーネ社)」の手で最初の6台が完成。1948年、ウニモグの生産はゴッピンゲンにある「ボーリンガー社」に委ねられ、当社は1950年秋までに600台のウニモグを生産。その後、需要の伸びとボーリンガー社の生産規模の限界に鑑み、生産はダイムラー・ベンツ社の一部門として採用されることが妥当であると決定された(下写真はU400ウニモグ)。

 この決定にはダイムラー・ベンツ社製ディーゼルエンジン”OM636″が搭載されていることが重要な要因でもあった。1951年6月にはダイムラー・ベンツ社のガゲナウ工場からメルセデス・ベンツによるウニモグ第一号が誕生(初期の雄牛の角マークに代わって、メルセデス・ベンツのエンブレムであるスリーポンテッドスターがU401シリーズから装着)。そして、2002年にはガゲナウ工場の生産拠点をヴェルト工場に移し、新工場で生産されたウニモグが8月26日にロールアウトした。

 この年はウニモグ新時代の幕開けでもあり、51年間に亘り累計32万台を生産したガゲナウ工場との別れを意味した。ウニモグの生産拠点だったガゲナウにあるウニモグ・ミュージアムでは、今まで造られたさまざまなウニモグを観ることができ、試乗体験もできる。

 日本においては「ヤナセ」がウニモグの販売を開始したのが1959年5月のこと。翌年4月には、北海道の営林局に4台を配車。当初の輸入元はヤナセの関係会社であった「ウエスタン自動車」だったが、2005年11月以降は「ワイ・エンジニアリング」が輸入元となっている。

 以上、ウニモグの活躍分野のほんの一部を紹介したが、あらゆる広い分野でウニモグは「モクモク」と働き続けている。なお、現在までの累計輸入台数は約1800台。もし、スリーポインテッドスターの「万能機械」を見かけることがあれば、ぜひとも魅力や歴史について思い出して欲しい。

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