クルマとの対話を楽しんだ古き良き時代
自動運転に向かってまっしぐらの現在、クルマに乗り込み、キーをひねれば(最近の車種はボタン式で、キーをひねることもなくなった)あとはアクセル&ブレーキとハンドル操作だけで何事もなく普通にクルマは動く。
エンジンの調子に気を使ったり、そのクルマに合わせて何か特殊な操作をする必要はまったくないといえる。逆にその昔はいろいろと様子を見つつ、調子を伺いつつクルマというのは運転したもの。運転でのストレス解消という点では進化したのだが、いま思うとクルマとの対話という点で、懐かしい気もしなくはない。今回は古き良き昭和の操作をまとめてみた。
【暖機運転】
暖機不要論が主流のいま、いきなり全開は避けるとしてもそのまま走り出しても問題はないとされる。しかし昭和の時代、とくに50年代までは暖機は必須で、エンジンが温まるまでは走りがかなりギクシャクして乗れたものではなかった。水温計の針が動くまで発進させるのを待っていたものだ。
【チョーク】
暖機と関係するのがチョーク。なにかというと、インパネに付いているノブを引っ張ると燃調が濃くなり、エンジンがかかりやすくなるという機能。冬場ではチョークを引かないとまったくエンジンがかからないのが普通と言えるほどだった。
現代のクルマでも燃調を濃くするという機能は働いているが、各センサーからの情報をコンピュータが判断して自動調整しているので、チョークは絶滅してしまった。ちなみに過渡期には、自動で引っ張ってくれるオートチョークというものもあったが、いずれにしてもキャブレター時代の産物と言ってもいいだろう。
【ダブルクラッチ】
効果が似ているので、ニュートラルでの「吹かし込み」と間違えている人がいるが、操作的には異なるのがダブルクラッチだ。ヒール&トゥも含めて、吹かしてシフトする場合はクラッチを踏むのは1回だけで、ダブルクラッチはその名のとおり2回踏む。
具体的にはシフトするときにニュートラルに戻したところで、一度クラッチをつなげてアクセルを吹かして回転を合わせる(回転差が少ないときは吹かさないこともあり)。その次にもう一度クラッチを切って、シフトをする。吹かし込みと効果は似ているものの、ダブルクラッチのほうがミッションの内部も合うので、より入りやすく、ミッションへの負担も小さい。
そもそもなぜそんなことをするのかというと、1速にはシンクロが付いていなかったり、付いていたとしても弱かったりしていたので、耐久性などの問題でギア鳴りがしやすかったから。いずれにしてもいたわる必要があったのだ。
【ポンピングブレーキ】
現在でも教習所では習うし、試験場で検定官に聞いても必要と言われると思うが、実際は絶滅してしまったのがポンピングブレーキ。その名のとおり、一度で一気に制動させず、何回かに分けてブレーキペダルを踏む操作のこと。
目的としては、後続車へのアピールだけでなく、タイヤのロック防止などもあった。いまではブレーキランプはハイマウントも付いているし(昔はなかった)、とても明るいので視認性は問題なし。もちろんロックもさせようとしてもできないようになっている。
【アフターアイドリング】
ターボ車はエンジンを止めるときに、しばらくアイドリングさせてからOFFにしたほうが良いとされていた。落ち着かせてタービンの温度を下げて焼付きを防止するというのが目的だったが、当時から賛否はあった。
現在はダウンサイジングターボの車両が増えているが、そんなことをするドライバーはいなくなってしまった。部品の精度や耐久性も向上しているので、よっぽど高負荷な運転を長時間続けた場合などを除き、クルマを止めたらすぐにエンジンを切ってOKだ。
【吹かしてからエンジンOFF】
スボーツカーでやっている人が多かったが、エンジンを切る前に、ブオンと吹かして、その回転が落ちるのと同時にオフにするという行為がよく見られたものだ。目的は最後に残っているガソリンを使い切るときなものだったが、いま思えば意味はなかった。ただし、なぜか“カッコイイ操作をしている感”があったのは事実だ。
【信号待ちでヘッドライトOFF】
現在でもたまに見かけるが、今後はオートライトが義務化されるなどで、ますます意味がなくなる行為だろう。その昔はダイナモの発電量が少なくて停止時は負担が大きかったし、光軸が狂いやすく対向車に迷惑をかけてしまうことを避けるため、みんなおこなっていた。
現在は坂になっていたりして、よほど対向車に直接ヘッドライト光が当たらない限りは不要。光軸はしっかりと出るし、狂いにくい。またON/OFFを繰り返すとハロゲンはもちろん、LEDやHIDでもライト自体の寿命に影響するので、やらないほうが良い。
【坂道はステアリングを左に切って停車】
役所系や配送の車両は現在でも路肩に止めるときに左に切って止めているケースを見かけるが、昔はMT車を坂道に止めるときにはステアリングを左に切ったまま止めた。サイドブレーキがあまり効かないクルマも多くて、シフトを入れ忘れると、ゆるゆると下がりはじめて大惨事になりかねない。左に切っておけば路肩にぶつかって止まるので、万が一のために行なっていた。いまでもやっているのは、他車がぶつかってきた場合に備えてのこと。
【トンネルの中で右ウインカー】
これは昭和でもけっこう古い時代だが、暗いトンネルで中央分離帯がないと走りにくいので、お互いに右ウインカーを出していた。そうすると、道路のセンターがわかりやすくなるというもの。
現代のクルマしか知らないヒトであれば、“そんな面倒臭いことをやっていたの!?”と思われるかもしれない。が、当時のドライバーはこれらの操作を当たり前のように行ない、どこかでそれを楽しんでいた部分もあった。昭和のクルマを楽しんだ人たちからすると、現代のクルマは優等生すぎて少しモノ足りなさを感じることがあるかもしれない。