カスタムの常識が変わってきた
ドレスアップの基本ともいえるローダウン。「車高を落としてインチアップしたホイールを履いて、次はマフラーかエアロを…」というのが定番だった。VIP、ユーロ、USDM、スタンス、スポーツ、ローライダーなどなど、カスタムの方向性はさまざまあれど、共通するのは「車高の低さ」。つまり車高短(シャコタン)がベースで、クルマをイジる=まず下げるのがごく当たり前だった。
「よくいわれている言葉ですけど、どんなクルマも車高を落とせばカッコ良くなる。たとえノーマルではイマイチな車種でも、ベタベタにしてホイールを換えるだけで驚くほどパリッとして見えるもの。もともとスタイリッシュなクルマなら尚更です」と、カスタムパーツメーカー「KLC」の川原代表。
しかし、ここ数年でその風向きが変わりつつある。ローダウンではなくリフトアップをする「アゲ系」のカスタム例が増えてきたのだ。もともとアゲの資質があるクロカン&SUV系はもちろんのこと、軽バン・軽トラやハイエースといった車種でもアゲ系のスタイルが流行。カスタム=ローダウンとはいえない時代になってきた。
「リフトアップする文化は昔からあったのですが、どちらかといえばマニアックな世界だった。それが昨今のSUVブームの影響を受け、一気に世間の認知度が上がりました。各自動車メーカーから登場する近頃の新型車は、SUVやクロスオーバーっぽい雰囲気のモデルことが多く、結果的にアゲが似合う車種が増えてきたことも大きいです」。
といっても、SUVブームだけがアゲ系カスタムを後押ししているわけではない。他にもいろいろ理由があるのだ。そんな「アゲ系カスタムのメリット」を紹介していこう。
比較的低予算で十分カッコ良くなる
リフトアップする量にもよるが、例えば30〜40ミリくらいの、いわゆる「ちょいアゲ」の場合、パーツ代や取り付け工賃を合わせても15万円ほどで済む(軽自動車の場合)。15万円と聞くと大金だが、これにはリフトアップ用のスプリングやその付属パーツ、オフロード系のタイヤ&ホイールも含まれる。
「サスペンションで上がるのは30〜40ミリでも、オフロード系の大径タイヤを履けば車高はさらに10〜20ミリアップ。合計50ミリくらいのアゲになる。これなら車体がひとまわり大きく見えるし、足元ではゴツめのタイヤが存在感を主張。
タイヤを大径化したことによる計器類の誤差や車体からのハミ出しなどが無ければ、基本的に車検も問題なし。コスト的にはダウンサスで落とすのと同じレベルですが、代わり映え効果・費用対効果はアゲの方が高いと思います」
どこでも行ける! ファミリーユースも快適
次は実用面について。わかりやすくローダウン系と比べてみよう。まずローダウンの場合だと、普段の使い勝手は残念ながら良くはない。もちろん落とし具合にもよるのだが、コンビニやスーパーの駐車場に入り難くなる、段差や踏切でバンパーやマフラーを擦る、ハンドルが全開切りできなくなる、などの欠点が考えられる。基本的に乗り心地も硬くなるので、同乗するパートナーや家族から反感を買うことがあるかもしれない。
一方でアゲ系の場合は車高が上がるわけだから、段差関係にはめっぽう強い。オフロードタイヤなら未舗装路にも入っていけるので、アウトドアシーンでは頼りがいのある相棒になってくれるだろう。乗り心地もチョイアゲであればノーマルとそう大差ない。よほどハードなM/T(マッドテレーン)タイヤでも履かない限り、ファミリーカーとしても十分使えるハズだ。
「若い頃は車高短の不便さも全然平気なんです(笑)。でも、歳を取ると体力的にも精神的にもキツくなってくる。だから楽に走れるアゲ系にシフトする人も増えています。それにアゲ系は釣りとかキャンプとか、アウトドアの趣味ともリンクするでしょ。若年層からシニア層まで幅広く支持されている理由は、そのあたりにあると思います」。
ただし注意点もいくつかある。いくら車高を上げてオフロードタイヤを履いても、岩がゴロゴロしているような荒れ地を走れるのはランクルやジムニーといった本格クロカン4WDだけ。それ以外の車種は「砂利道も走りやすくなる」くらいに考えておく方が無難だ。
また全高が大きく変われば立体駐車場など高さ制限のあるところに入れなくなったり、組み合わせるタイヤサイズによってはハンドルが切れなくなるケースがあるのもお忘れなく。
イマっぽくお洒落なイメージに仕立てられる
こちらも車高短系と比較。あまり詳しくない人からすれば、ベタベタに低い車高短は“不良っぽい”クルマに見えるかも知れない。「ヤンキーや暴走族じゃないの?」と勘違いする人もいるだろう。ひと昔前ならいざ知らず、イマドキの車高短乗りはいたって普通の人ばかりだし、違法改造車も激減しているのだが…。ネガティブなイメージはなかなか消えないものだ。
「一方でアゲたクルマは不思議とイマっぽくてオシャレに見える。これにはいくつか理由があり、まず何より自動車業界全体がSUVブームの中にあること。そしてアゲのベースになるクルマ自体が新しいこと。また軽カーでいえばハスラーやジムニーなど、無骨だけどレトロで可愛く見える車種も多い。それをイジることで、クラシックカーのようなオシャレな雰囲気を出せるというのもあります」。
「オシャレ」という言葉とは対極にあるハズの軽トラでさえ、リフトアップによってグッと垢抜けて見える。イジり方によっては、インスタ映えする“イマ風SUV”にイメチェンすることもできるのだ。
「ただ、アゲ系カスタムは業界の外ではまだまだマイナーな存在だと思います。クルマのイジり方に“アゲ系”があること自体、知らない人も多いでしょう。今後はそういった方々にも認知され、カッコイイと思ってもらえる魅力的なアゲ系パーツを開発していきたいですね。もちろん車高短派を否定するつもりも一切ないので、そちらのパーツも作っていきますよ」。
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