希少価値にも関わらず安い中古クルマ
1990年代は国内自動車メーカーの技術力が高まったのに加え、弊社発行の「CARトップ」や、2&4モータリング社制作のカービデオマガジン「ベストモータリング」誌の影響も大きく、国産スポーツカーは「サーキット(とりわけ筑波サーキット)での速さこそ正義」という風潮が強かった。
近年「25年ルール」の対象外となり中古車相場が高騰している国産スポーツカーは、当時クラス最速を誇ったモデルが大勢を占めているが、そこから外れた車種はマイナーな存在となり新車販売も低迷。現在の中古車市場でも相場は比較的安いものの、残存台数が極めて少ないため入手困難になっている。
その中から筆者が独断で選んだ、「いい個体が見つかったら即買い!」なモデルを3車種紹介したい。
三菱FTOは1994-1995年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞
1台目は1994年10月にデビューした三菱FTO。全長×全幅×全高=4320×1735×1300mmのワイド&ローかつコンパクトなボディに、当時でも数少ない2.0LのV6エンジンを設定したFFクーペだ。
なお、最上級グレードの「GPX」に搭載された2.0L V6は、可変バルブタイミング&リフト機構「MIVEC」を搭載して200ps/7500rpmと20.4kgm/6000rpmを達成。中間グレード「GR」の2.0L V6は170ps/7000rpmと19.0kgm/4000rpm、廉価グレード「GS」の1.8L直4は125ps/6000rpmと16.5kgm/4500rpmとなっている。なお、いずれのグレードにも5速MTと4速ATが設定された。
また、国産車初のマニュアルモード付きATとなる「INVECS-2スポーツモード4A/T」をAT車全車に搭載。スタイリッシュかつアグレッシブな内外装デザインも相まって、多くのジャーナリストから高い評価を受け、第15回1994-1995日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。
しかし、ホンダが1995年8月に発売したインテグラ・タイプRに国産FF最速の座を奪われると、人気も急速に陰りを見せ始める。
1997年2月のマイナーチェンジではよりアグレッシブな外観を得るとともに、「GPX」をベースとしてスポーツサスペンション、ヘリカルLSD、前後ストラットタワーバー、大型リヤスポイラーなどを標準装備したホットバージョン「GPバージョンR」を追加。
そのほかにも「GR」をベースとした「GXスポーツパッケージ」を追加し、「GXスポーツパッケージ」と「GPX」「GPバージョンR」のATを5速とするが、販売を回復するには至らず。2000年9月に販売を終了している。
FTOにあってインテRにないもの、それはやはり、現代でも通用するほどスタイリッシュな内外装デザインと、V6独特のきめ細かなサウンドと回転フィールだろう。
クルマ好きとしては、よりハイパフォーマンスで走りを楽しめる「GPバージョンR」か「GPX」の5速MT車を狙いたい所だが、デビュー当初よりINVECS-2を強く訴求していたこともあり、同年代のスポーツクーペと比べてもMT比率は低い。そのため「GPバージョンR」や「GPX」の5速MT車は残存台数自体が少なく、さらに走行距離が短く修復歴もないものは市場に出回ることさえ稀なので、運良く見つけられたら「即買い」だ。
高級感の5代目ホンダ・プレリュード
2台目は1996年11月にデビューした5代目ホンダ・プレリュード。2代目と3代目は「デートカー」の代名詞的存在であるとともに、初代は日本初の電動サンルーフ、2代目は4輪ALB(アンチ・ロック・ブレーキ)、3代目は世界初の4WS、4代目は電子制御4WSを採用した、最新技術のショーケース的存在でもあった。
5代目ではグラマラスなスタイルでスポーティな性格が強かった4代目をベースとしつつも一転して、「デートカー」として一世を風靡した2〜3代目に近い、直線基調のエクステリアと高級感・居住性を重視したインテリアに回帰。その一方で、トルクベクタリング機構の先駆けとなった「ATTS(アクティブ・トルク・トランスファーシステム)」を、最上級グレード「タイプS」に搭載している。
エンジンは全車とも2.2L直4だが、グレードごとにスペックは全て異なる。「タイプS」のH22A型2.2L DOHC VTECは220ps/7200rpmと22.5kgm/6500rpm、「SiR」のH22A型2.2L DOHC VTECは200ps/6800rpmと22.3kgm/5500rpm、「Si」のF22B型2.2L DOHCは160ps/6000rpmと20.5kgm/5200rpm、「Xi」のF22B型2.2L SOHCは135ps/5200rpmと19.6kgm/4500rpmだ。
トランスミッションは、全グレードに5速MT、「タイプS」を除く各グレードに4速マニュアルモード付きATを用意。電子制御4WSは「SiR」と「Si」、ビスカスLSDは「SiR」と「Si」にオプション設定していた。
なお、1998年9月には、「SiR」に220ps仕様のH22Aと5速MTを搭載しビスカスLSDを標準装備した「SiR・Sスペック」を追加している。
このように最先端の技術と走りの装備を満載しながら、デートカー路線へ回帰したこと、また当時のトレンドにおいては旧態依然とした内外装デザインが仇となり、5代目プレリュードはデビュー当初から販売が低迷。2000年9月に生産を終了した。
しかしながら5代目プレリュードは、中古車市場に流通している台数は少ないものの、FTOほど枯渇した状況ではなく、修復歴がなく走行距離も短い車両もまま見受けられる。
ただし、高性能な「タイプS」や「SiR」、「SiR・Sスペック」の5速MT車は人気が高く、同程度のAT車に対し約2倍の相場となっている。「タイプS」の低走行車は200万円近い値札を提げているので、雰囲気だけ楽しみたい人はむしろ「Si」や「Xi」のAT車が狙い目だろう。
ホンダ・アコード/トルネオユーロR
最後の3台目は、2000年6月に発売されたCL1型ホンダ・アコード/トルネオユーロRだ。
ベース車である6代目アコードと姉妹車のトルネオは1997年9月に発売されたが、2000年6月にマイナーチェンジ。この際に200ps仕様のF20B型2.0L直4DOHC VTECエンジンに5速MTを組み合わせる最上級グレード「SiR-T」が廃止され、その後継グレードとして「ユーロR」が誕生した。
エンジンは5代目プレリュードタイプSとほぼ共通の、220ps/7200rpmと22.5kgm/6700rpmを発するH22A型に換装。25mmワイド化し1720mmの全幅を得るとともに、15mmローダウンした専用サスペンションと軽量16インチアルミホイール&205/50R16 87Vのブリヂストン・ポテンザRE010ハイグリップタイヤ、16インチフロントブレーキローター、前後ストラットタワーバー、ヘリカルLSD、専用セッティングのEPSなどを採用して、走行性能を大幅に強化した。
室内にも、レカロ製セミバケットシートやモモ製本革巻きステアリングホイール、アルミシフトノブ、ホワイトメーターなどを採用して、デザイン・機能ともにインテグラ・タイプR4ドアよりも“大人のスポーツセダン”としての側面を強めている。
実際の走り味は「ユーロR」の名前通り欧州車のスポーツセダンに近いもので、快適な乗り心地と静粛性、余裕のある低速トルクを備えながら、高速域でも操縦安定性は高く、そして充分以上にパワフル。
なお、2002年5月には、赤のアクセントをあしらったレカロシートにハイウィングタイプのリヤスポイラー、チタンシフトノブなどを装着した特別仕様車「ユーロR・X」が発売されている。
その後2002年10月デビューの7代目アコードにも「ユーロR」(CL7型)は設定されたが、プラットフォームが一新され車重が60kg増加(1390kg)。エンジンも排気量がやや小さい2.0LのK20A型になっているため、より余裕のある走りを求めるならば、むしろCL1型の方が良いだろう。
なお、CL1型アコード/トルネオ・ユーロRは、単純に販売期間が約2年と短かったことが災いして、販売台数・残存台数とも非常に少ない。現在の中古車市場では、知名度の高いアコードの方が流通台数はその中でも比較的多いものの、程度の良い個体は少なく、相場は若干高めになっている。
逆にトルネオは台数こそごくわずかだが、知名度の低さとやや厚みのあるフロントマスクから、相場が若干低くなっているため、通を気取れるという点でもこちらがお買い得でオススメだ。