キャブレターはガソリンと空気を混ぜて燃焼
クルマでまったく用いられなくなった部品に、キャブレター(気化器)がある。今日の燃料噴射に替わる前、エンジンにガソリンを供給する装置だ。
原理は、霧吹きのように、エンジンに吸い込まれる空気の負圧を利用し、ガソリンを噴き出して空気と混ぜる仕組みである。しかしいまでは、霧吹きという言葉さえ死語に近いかもしれない。
空気の流れが速くなると、大気圧より圧力が下がり、ガソリンが吸い出されるのを利用して、空気と混合する。アクセルペダルの踏み込み量に応じて、スロットルバルブが開くと、流れる空気量が増えるので、それによって負圧が増大し、ガソリン供給量も増やせる。
アクセルペダルを深く踏み込めば、スロットルバルブはより大きく開き、空気の流れがさらに速くなるので、多くのガソリンを供給でき、加速が強まる。
1886年に、ドイツのカール・ベンツがガソリンエンジンの自動車(パテント・モトール・ヴァーゲン)を発明したときには、まだキャブレターはなかった。気化しやすいガソリンが自然に液体から気体へ変化するのに合わせてエンジンを回すしかなかった。そこで、パテント・モトール・ヴァーゲンは、時速15kmほどの速度しか出せなかったのである。
ツインキャブ=高性能の証だった
キャブレターで憧れとなったのは、ツインキャブレターといって、一つのエンジンにキャブレターを2個用いることだった。基本的には直列4気筒エンジンに一つのキャブレターで間に合わせるのが標準で、これで問題なく走らせることができた。
しかし、より高性能で、アクセル操作への応答のよさが求められるスポーツカーなどでは、多くのガソリンを各気筒へ的確に、素早く供給したい。そこで、2気筒に適切な燃料供給ができる機構のキャブレターを2個装備すると、4気筒すべてに的確にガソリンを供給できる。
また、キャブレターから吸気までの距離(マニホールドの長さ)を各気筒へ均一に、かつ短距離にできるので、アクセル操作への応答も早くなる。イタリアのウェーバーや、フランスのソレックス、英国のSUなどが有名で、直列6気筒エンジンであれば、それらを3つ装備した。
70年代に排出ガス規制がはじまり、時代とともに規制値が強化されると、燃焼をより完全に近づけ、また緻密に制御するにはコンピュータによる管理が必要になり、キャブレターから意図的に燃料を供給できる燃料噴射へ移行していった。