決して「レース」と呼ばない「レースみたいなエコラン」競技がじつは正解
軽自動車の耐久レースファンなら、おそらく知らない人はいないであろうK4-GP(ケイヨンジーピー)。毎年夏と冬の2回、富士スピードウェイで開催される軽自動車だけで走るエコラン競技のこと。現在は冬が7時間耐久、夏は5時間/500キロと10時間/1000キロ耐久が行われている。
毎回、およそ130チームの参加を集めて大盛り上がり。回を重ねる毎に、どんどんと有名イベントになり、いまもなお成長中。
また2015年以降、衆議院議員の古屋圭司さんや中山泰秀さんらもドライバーとして活躍する「自民党モータースポーツ」チームも幾度となくアルトで500キロ耐久に出場するなど、ビッグネームも多数参戦している。
なぜ、それほどまでに人気なのか? ここではK4-GPとはいったいどんなイベントなのか解説し、その本質や魅力に迫ってみよう。
歴史のはじまりは2001年から
K4-GPがあるのは、いまは亡きレーシングカーデザイナーの杉山 哲さんのおかげ。1970年代に自らの会社「マッドハウス」を立ち上げて以降、国内トップカテゴリーにおけるレーシングカーのカウルデザインを手がけてきた有名人。そして日本の近代モータースポーツのすべてを知る人物のひとりだ。
それこそ、レース業界の表も裏も知り尽くした杉山さん。この先のモータースポーツの発展を願うには「お金と命をかけるようなレースはやりたくない」との発想から、考え出されたのがK4-GPなのだ。
1999年には前身となる富士スピードウェイでのKカーミーティングが開かれ、翌々年の2001年には『富士K4GP&アザーズ』という4時間耐久を開催。2002年には早くも1000km耐久を実現。そこから競技規則や車輌規則が少しずつ整備され、いまの10時間耐久へと発展してきた歴史がある。
K4-GPはレースと呼んじゃいけない
K4-GPの創設者である杉山さんの意思は、いまでもしっかりと受け継がれている。だから、分かっていても決して「レース」とは呼ばない。いや、呼んじゃダメなのだ。K4-GPとはある意味、その意思を理解する仲間うちで楽しむ「レースごっこ」が正解に近い。そのためにK4-GPに出るには、全員が仲間になるために特別なK4-GPライセンスを取得することが必要なのだ。
その「レースごっこ」の象徴となるのが、10時間耐久におけるスターターの仮装。レギュレーションの競技規定の章にはスタートの条に「スタート要員はサーキットに相応しくない仮装をすること」と明記されている。 ちなみに、すぐれた仮装にも賞が与えられ、競技の結果よりも仮装に力を入れてくるチームも少なくはない。すなわち、通常のレースではないことを前提に、他の参加者と一緒に「楽しく」「安全に」「笑顔で」イベントを終えることがK4-GPであり、それこそが杉山さんの意思そのものと言えるのだ。
競技中のスピードを落とし、作戦を複雑にするエコラン
夏の5時間耐久/10時間耐久、冬の7時間耐久にとにかく共通して言えることは、限られた燃料内でいかに燃費良く走るかを競う、レース形式のエコラン競技であること。しかもその燃料量たるや、まさにエコランらしく相当に絞られており、目を三角にしてアクセル全開で走ろうものなら、到底ゴールまでたどり着けないぐらい厳しい。これには安全のために競技中のスピードを落とす意味もあり、競技をがぜん面白くする要因にもなっている。
出場できる車両は基本的に軽自動車(ハコ車/量産車)か軽自動車のエンジンを積んだレースカー(R車両/オリジナル)に限定されている。そのなかから、GP-1=ATクラス(ハコ車、R車両問わず)、GP-2=ハコ車のNA、GP-3=ハコ車のターボ、GP-4=R車両のNA、GP-5=R車両のターボの5つにクラス分けされている。※厳密には排気量で制限
そのクラス毎に順位を競うワケだが、それぞれで使用できる燃料量が違い、使用できる燃料量の発表は、なんと決勝の1週間前(!!)。そこから決勝までの僅かな時間を使って、各チームとも頭をフル回転させ、どうすればライバルよりも燃料を使わずに速く走れるかを必死で悩むのだ。
使用できる燃料量が限られているので、速いクルマをつくるためにいくらお金を注ぎ込んだとしても、あまり意味がない。「お金を使うよりも頭を使え!!」これもまた杉山さんの教えどおりである。
どのチームが勝つかはまったく予測不能
通常のレースであれば、クルマが速ければ速いほど優勝できる確率は上がる。ただ何度も申し上げている通り、クルマが速いだけでは勝てないのがK4-GP。それは使用できる燃料量が限られているだけではなく、義務給油回数、また1回に給油できる給油量もイベントの度に変化するので、過去のデータをそのまま使うこともできない。もっと言うと、どのタイミングでどれだけ給油するかは、事前に申告しなければならないルールになっている。
ちなみに大雑把だが、10時間耐久で使用できる燃料は平均的に70リッター程度。仮に10時間で1000kmの距離を走ると仮定すると、1リッターあたり14.3kmという燃費が必要になる。1時間あたりに換算しても7リッターしか使えない。軽自動車で高速道路をクルージングする程度といえば分かりやすいかもしれない。
ゆえに10時間ということだけが決まっていて、実際の競技距離は終わってみないと分からない。それに対して給油は事前申告になっているから、自車の性能や燃費、チームのドライバーの技量などを当て込みながら、10時間のあいだに起こりうるであろうことの仮説を立て、いろいろなことを予測して、競技前にある程度の答えを出さないと行けないのだ。
さらには、自分のチームだけじゃなく、ライバルチームがどんな作戦で来るのかも予測する必要がある。もう、超複雑。
さらに運も必要になってくるので、すなわち、どのチームにも優勝するチャンスがあるということ。これが、お金もかけず、命もかけずに楽しめるモータースポーツ『K4-GP』の本質だ。