あのケン・ブロックもやっている ドラテク磨きに最適の競技
新型スープラやGRヤリスなど最近のスポーツカー人気の影響もあって、競技人口が一時に比べて戻りつつあるのが“ジムカーナ”というモータースポーツだ。かつては参加型モータースポーツの花形だったのだが、ここ10年ぐらいで気軽にサーキットを走れるようになったこともあり、ジムカーナに出場する人が減少傾向にあった。
しかし、「十年一昔」とはよく言ったもので、流行りがひとまわりしたのか、今年3月に開催されたジムカーナイベントではのべ130人(台)の参加選手を集め、なんと主催者も超びっくりの満員御礼。ここではそんなジムカーナについて、どんなモータースポーツなのかをあらためて見ていこう。また、最近ジムカーナに目覚めたという女性のインタビューも合わせて紹介していく。
ジムカーナとレースの違いとは?
普通にテレビを見ていても、クイズ番組などで「世界三大レースとは何?」なんていう出題があるので、一般常識的に“レース”のことはおそらく大抵の人がイメージできるはず。ちなみに、モータースポーツにおける世界三大レースとは、よく西洋映画にも出てくる「F1のモナコGP」と「ル・マン24時間」、そしてアメリカの「インディ500」だと言われている。
だが“ジムカーナ”となると、どんなことをするのか知らない人が多いのが実情。あっ、あのケン・ブロックがやってる動画シリーズ「GYMKHANA」がYouTubeで何億回も再生されているから、むしろ言葉だけは耳にしている人も多いかもしれない。ただ、恐れずにいうと、ケン・ブロックのジムカーナは、ご存知のとおり過激なパフォーマンスを見せるエンターテイメントであって、今回掘り下げようとしている競技としてのジムカーナとはちょっと趣が違うので念のため。もちろん、ここでいうジムカーナを極めれば、ケン・ブロックみたいになることは可能である。
「ジムカーナとは何か?」を説明するために少々遠まわりしてしまったが、まったく知らない人には“ジムカーナ”と“レース”の違いをご理解いただくのが近道。
レースとは、複数台(2台以上)の車両が一斉に同時スタートし、どの車両(選手)がゴールラインを一番早く切るかを競うもの。対してジムカーナは決められたコースを1台だけ(個別)で走り、スタートからゴールまでのタイムを計測し、どの車両(選手)が一番タイムが短かったかを競うもの。国内モータースポーツを統括しているJAFの定めでは、ジムカーナなどのタイムトライアル競技をレースと区別して“スピード競技”と呼んだりもする。
観客の視点からは、レースは見た目の順位がそのままの結果になるので分かりやすく、ほかのスポーツと同じく好きな選手や贔屓にしているメーカーに対する応援や熱狂度合いは高い。一方のジムカーナは競技結果が見た目では分かりにくく、ビールを片手に観客が熱狂する姿はほぼ見られない。運転の正確さを競う要素もあるので、あまり言いたくはないが、同じモータースポーツでも見た目は地味と言えば地味。なので、ケン・ブロックのジムカーナをイメージしていた人には期待をさせて申し訳ない。
ジムカーナはどんなクルマでも出場可能
レースとジムカーナの違いで、さらに言及すべきことは、レースは複数台で同時に走るため他車と接触することもあり、どうしても事故につながる可能性が高くなることは否めない点だ。なので、レースに出場するには本来であれば、厳格な車両規則や競技規則に従ってクルマもドライバーも安全装備を充実させなければならない。
だが、ジムカーナは1台ずつ走るので、レースのような大きな事故になることは限りなくないと言えるだろう。レースはかなりのスピードも出るが、ジムカーナは広い駐車場のようなスペースにパイロンを立ててつくったコースや、いわゆるカートコースやミニサーキットで開催されることが多く、出る速度も安全な範囲に抑えられているのが特徴だ。5速マニュアルミッションのクルマなら、ほぼ1速や2速ギアが中心で、たまに3速に入る程度の速度域。
従ってレースに比べてジムカーナはより安全であると言え、レースのような厳格な安全装備は不要とされている。すなわち、レースだと出場できる車両が限られてしまうことがあるが、ジムカーナは原則的にどんな車両でも参加できるようになっている。普段、通勤や買い物に使っている純正のままのクルマ(ミニバン、エコカー、SUVもOK)でも出場できてしまうので、レースと比べればそれほど改造費用がかかるものでもない。ジムカーナがもっとも身近なモータースポーツだと言われている理由はそこにある。
あとはドライバーの装備としてスポーツドライビングに適したヘルメットとグローブをそろえれば、準備OK。レーシングスーツやシューズは推奨されているが、マストではない。
JAFの公式ジムカーナに出場するには、JAFが発給するモータースポーツライセンス国内Bの取得が必要になる。だが、ライセンス不要のジムカーナも各地で開催されているので、その気にさえなれば気軽にモータースポーツを味わうことが可能なのだ。
地味だけど奥が深くてやればハマる サイドターンにドリフト走行
1/1000秒の差を競うこともザラにあるジムカーナ。見た目の順位ではなく、計測タイムの1/1000秒差でも「勝ちは勝ち」というところにもロマンがある。レースは、サーキットの決まったコースを周回するが、ジムカーナは競技会ごとに新たにパイロンが立てられ、コースが毎戦違うことが最大の特徴になっていて、まずはコースを覚えるところから1日が始まる。これを公式戦ではたいてい2トライし、ノーライセンスで出場できるイベントなどでは3トライとかを走ってベストタイムを競う。
コースレイアウトのなかには、いくつか連続して並べられたパイロンを右→左→右→左などとリズミカルに抜けていくスラローム区間があったり、パイロンを中心に180度Uターンしたり、ときには360度まわるようなパイロンターン区間があったりと、テクニックはもちろんだが運転操作の正確さも必要とされる。このようなパイロン区間を最短距離でクリアするため、サイドブレーキを使ってリアタイヤをロックさせてテールスライド(ドリフト)させるサイドターンなどは、ジムカーナならではのテクニックのひとつ。
いずれにしてもジムカーナで上位を狙うには、人馬一体ならぬ人車一体となってクルマを意のままに操れるようになることが必要。ただ速く走るだけではなく、コースを覚えること、さらにはミスをしない走りこそが重要で、ジムカーナはかなりの集中力もいる。このことから、ある意味、自分自身との戦いという側面もある。ちなみにパイロンに車体が触れるとパイロンタッチといって、ペナルティタイムが加算される。