FRの持つ優位性は今どこに
かつてクルマの駆動方式は、高級車、大型車は後輪駆動(FR)が主流だった。前輪に駆動力がかからないフリーな状態になっていることによりステアリングフィールが自然なものになり、振動関係が有利でもあるため、大パワーへの対応のしやすさやコントロール幅の広さといったメリットによりスポーツモデルもFRを選択した。
一方で実用車はエンジン前置きでキャビンやラゲッジスペースを広く取れることや、コストの安さといった強みを理由に前輪駆動(FF)ということが多かった。
このあたりを考えるとFFは普及品、FRはより高級、スポーティなものとも言えるのだが、元号が平成になったあたりから様相が変わり始めたように思う。タイヤの性能向上や4WDの普及といった技術の進歩があり、FFの高級車や大型車、FF車で300馬力オーバー、FFベースの4WDで400馬力のスポーツモデル、なども珍しくなくなったのだ。そのためFRを捨てFFとなったブランドやモデルも多い。いくつかの例でその是非を考えてみることにしよう。
トヨタ スターレット
現在のヤリスの前身となるトヨタのコンパクトカーであるスターレットは、2代目モデルまでFR車だった。当時トヨタ車は全体的にFF化が早くはなかったこともあり、FRゆえにコントロール幅が広いこともあって、スポーツドライブの入門車としての資質は高かった。
スターレットは1984年登場の3代目モデルでFF車になるのだが、これはコンパクトカーということを考えれば、冒頭に書いた広さやコストといったメリットの方が大きく、非常に正しい進化だった。また3代目スターレットはNA車でも車重が軽かったためパワフルだった。加えてモデルサイクル中盤でターボ車を設定するなどスポーツ性も忘れておらず、入門カテゴリーのモータースポーツベース車という重要な役割への対応も抜かりがなかった。
スターレットには、FF化のデメリットはなかったと断言できる。スターレットはFRからFFへの移行の理由が読み取れる序章とも言える。
ボルボのミドルクラス以上
ボルボのミドルクラス以上のモデルは、ボルボというメーカーが小さいためなかなかFF車を作れなかったという事情もあったのか、長年FRだった。
FRが長年続いた理由には「冬場のスウェーデンに代表される雪道では、アクセルオンでリアを流すことでも曲がれるFRの方が有利だから」という主張もあったという。
しかし1992年登場の850からミドルクラス以上もFF化が進み、20世紀中にはボルボにFR車はなくなった。ボルボのFF化は前述の主張との矛盾はともかく、発進時にリアが滑らないなどの雪道でのFFの乗りやすさは事実である。
ボルボにスポーツ性を追求するユーザーは最近ではそれほど多くはないし、スポーツモデルやハイパワーモデルは4WDで対応できる現在の技術を考えれば、こちらも正しい変化といえるだろう。
アルファロメオ
アルファロメオはBMWと並ぶスポーティなプレミアムブランドだけに、昭和の時代まではFR車中心のラインナップだった。
しかしクオリティの低さなどが原因で80年代にはアルファロメオの経営は傾き始め、86年にはフィアット傘下となった。フィアット傘下になってからはフィアットとのプラットホームの共用など、FRへのこだわり以前の、会社の存続のための状況もあってか、長らくアルファロメオからFR車がなくなった。
ジュリエッタが2010年に復活したがこちらもFFとしてだった。それでもアルファロメオはその中でプレミアムかつスポーティなモデルを作り続け、運転して楽しい点などクルマ自体も悪くはなかった。
しかしアルファロメオ自身、ファンともにFR車への未練は捨てきれなかったようで、現在のジュリアとステルビオはマセラティと共同開発されたFRのプラットホームを使ってFRを復活させている。今後のFR復活、発展が期待される一石かもしれない。
BMW 1シリーズ
BMW最小の1シリーズも2代目となる先代モデルまでは、BMWの伝統に従ってFR車だった。 しかし昨年登場した現行3代目モデルからはBMW社内の「2シリーズ以下はミニのFFプラットホームを使う」という方針によりFF車となった。
1シリーズのFF車化を認めたくないマニアがいるのも分かるが、1シリーズくらいの車格のモデルであればFFのデメリットよりもむしろメリットの方が多く、2リッターターボのようなハイパワー車は4WDで対応すれば問題ない。総合的に考えればFRというイメージがなくなったのは惜しいが、正しい変化と言わざるを得ないだろう。
FRファンもいるクルマ界だが、是々非々をまとめて言うならば「現代のクルマであればスポーツカーやスーパーカーのような相当マニアックなジャンルでない限り、駆動方式よりもクルマ次第」というのが結論だ。最終的な判断はあくまでも完成したクルマで行うべきだろう。