さまざまな「音」がクルマの魅力だったあの頃
「ブゥオォン」「プシュー」「ヒュルルル」…etc。思えば昔のクルマはさまざまな音を発していた。たとえば信号待ちでボボボ…と低音を響かせていたスポーツカーが、発進から「ブゥオオ」と唸りをあげて力強く加速し、シフトチェンジでひと息つくようにプシュー。そんな光景がそこかしこにあった。
ハイブリッドカーなんてまだ遠い未来の乗り物で、エコカーという言葉すら使われていなかった時代だ。具体的には各自動車メーカーが競い合うようにスポーツモデルを開発していた、1980年代後半〜2000年ぐらいまでだろうか。
なかでもターボ車に装着されたブローオフバルブが放つ「プシュー」という音は強烈なインパクトがあった。当時まだ免許すら持っていなかった筆者も憧れた。思い返してみると、少しでもイジった気配のあるクルマ(もちろんターボ車に限るが)なら、かなりの高確率で「プシュプシュ」いっていた気がする。
「当時、ブリッツのブローオフバルブも爆発的にヒットしました。作ったらすぐ売れてしまうので在庫は常に空。当社以外のブローオフバルブもかなり売れていたハズですが、それでもまったく売り上げが落ちない。驚異的でしたね」とチューニングパーツメーカー「ブリッツ」の小林サン。
チューニングカーの証ともいえた懐かしのサウンド
そもそもブローオフバルブとは?という話だが、簡単にまとめると以下のようなモノ。
・不要になった圧縮空気を逃すためのターボ車専用パーツ
・空気の行き先は(1)「吸気側に戻す」(2)「大気へ放出」の2択
・(1)のタイプは純正でも採用されており「プシュー」音は出ない ※社外品もあり
・(2)のタイプはほぼ社外品。プシューと鳴る
効果としては、レスポンスの向上、タービンの破損防止などが挙げられるが、コレを付けたからといってパワーアップできるようなパーツではない。
「しかし最大の魅力はやはり音だったと思います。当社の商品も『スーパーサウンドブローオフバルブ』と銘打って音質をウリのひとつにしていました(現在も改良を重ねて同名で販売中)。パーツ単体の価格は3万円前後で、なおかつDIYで簡単に取り付けられたのも広く支持された理由でしょう。ハードなチューニングはしなくても、とりあえずブローオフバルブだけは付けているという人も多かったのではないでしょうか」。
「ターボ車が欲しい、ターボ車に乗ってプシュプシュいわせたい─」リアルに速く走りたいというよりは、その雰囲気を味わってみたい。そうしたライトユーザーたちにも大いにウケ、一世を風靡するほどの人気を博したブローオフバルブだったのだが……。
環境問題でターボ車が激減。当然ブローオフバルブも…
スカイライン、シルビア、スープラ、RX-7、インプレッサ、ランエボなど。若者を中心に絶大な人気を誇り、社外ブローオフバルブの「お得意様」だったこれらのターボモデルは、2000年代に入って次々と姿を消していくことになる。
「地球温暖化をはじめ環境問題がクローズアップされるようになり、排ガス規制も厳しくなってきました。当時のターボ車は今のクルマのように排ガスの浄化性能が高くなく、燃費も良くなかった。エコが叫ばれる世の流れには逆らえず、おのずとスポーツモデルもNA(自然吸気)エンジンへとシフトしていったのです」と小林サン。
当たり前だがNA車にブローオフバルブは付けられないので、ストリートに響いていた「プシュー」という音も、徐々に聞かれなくなってしまった。
ブローオフバルブが存在しない? 今どきのターボ車
やがて時代は移り変わり、再びターボエンジンが注目されるようになってきた。ご存じ「ダウンサイジングターボ」だ。税金面で有利な小排気量でありながら、十分なパワーとトルクを発揮でき、なおかつ燃費や排ガスレベルもNA並み。ここ数年、国産車でも採用車が増え、クリーンディーゼルやハイブリッドと並ぶ有力候補になってきた。これはもしや、ブローオフバルブの復権も近いのではないか!?
「…そうですが、この手のターボエンジンにはもともとブローオフバルブが付いていないことが多いんです。ブローオフバルブは行き場のなくなった圧縮空気を逃がすための機構ですが、その役割を非常に簡単にいえば、進化したコンピュータ制御で補っている。だから昔のようにお手軽に交換ということができなくなっています」。
たとえばトヨタ・カローラスポーツやC-HRに採用されている8NR-FTS型エンジン(1.2L直列4気筒ターボ)や、ニッサン・スカイラインの274A型エンジン(2L直列4気筒ターボ)など。ダウンサイジングモデルではないが、ホンダ・シビックタイプRのK20C型(2L直列4気筒ターボ)にも純正ブローオフバルブは付いていない。
軽自動車のターボエンジンはブローオフバルブを装備
ではどんなクルマならブローオフバルブを付けられるのか? 調べてみると、現行世代ではGT-Rやスイフト・スポーツ、トール/タンク/ルーミー/ジャスティあたりしかない…と思いきや、「軽自動車のターボモデルならかなり幅広く対応してますよ」とのこと。
「ホンダ・S660やダイハツ・コペン、スズキ・アルトワークスといったスポーツ系はもちろん、ホンダ・N-BOXや、スズキ・スペーシアカスタム、ハスラー、エブリイなど現行車のラインナップは多数。ダイハツ・タントカスタムも開発中です。また過去の世代にも対応はたくさんあります」と小林サン。
さらには前述したホンダ・シビックタイプRのブローオフバルブも、ブリッツで開発予定だという。「純正でブローオフバルブが付いていない車種の場合、付けることでコンピュータにエラーが出たり、チェックランプが点いたりします。またパイプの装着やスペースの確保などクリアすべき問題はいろいろある。それでも商品を求められる声が多いので、いま頑張っているところです!」。
音だけでなくエンジンルームのドレスアップ効果もあり
最後に注意点を。「プシュー」でおなじみだった大気開放タイプのブローオフバルブは、排ガス規制に抵触するため車検NG。残念ながら、公道で堂々とあの音を楽しむことはできなくなってしまった。ただ、冒頭でもチラッと紹介した「吸気側に戻す(サクションリターンタイプという)」のブローオフバルブであれば問題はない。
「スロットルコントローラーやブーストコントローラー、あるいはボルトオンターボなどと併用すれば、走りはガラッと変わってきます。当社の製品ですと、素材やデザイン、カラーリングにもこだわっているので、エンジンルーム内のドレスアップ効果も高いと自負しています。ブローオフバルブの魅力は音だけでないということを、ぜひ知っていただきたいですね」。
取材協力
BLITZ(ブリッツ)
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