コストダウンは消費者にも伝わっていた
その筆頭は2010年に発売された3代目ヴィッツで、乗り心地が粗くノイズも大きかった。特に直列3気筒1リッターエンジンを搭載する14インチタイヤ装着は不快だ。インパネの周辺など、内装の質は全グレードにわたり下がった。2代目ヴィッツが上質だったこともあり、ネッツトヨタ店のセールスマンが「これでは先代型のお客様に新型への乗り替えを提案できない」と悩むほどだった。
同じ2010年に発売されたパッソはダイハツ製だが、これも悪影響を受けた。乗り心地が粗く、13インチタイヤ装着車は、操舵に対する反応が曖昧だ。路上駐車する車両を避けるため、ステアリングホイールを少し動かす時にも気を使った。開発者に話をすると「やはりそう感じますか…」と肩を落としたのを思い出す。
2011年に発売された現行アクアも同様で、ハイブリッドだからモーター駆動のみで発進した後、エンジンが始動するとノイズが急に高まった。幾何学模様のインパネも質が低かった。
2012年に発売された先代型のカローラアクシオ&フィールダーも、乗り心地、ノイズ、操舵感、インパネ周辺の質感に不満を感じた。
ほかのメーカーでは、2010年に発売された現行日産マーチが気になった。内装の質が下がり、特に後席を倒した時に露出する部分の仕上げが粗かった。乗り心地と安定性にも不満が伴った。
2012年の現行三菱ミラージュは、シートの座り心地とホールド性が悪く、燃費性能に固執した影響もあって乗り心地は硬い。ミラージュとマーチはタイ製だが、生産国の問題ではなく、本質的に造りが粗かった。
これらの車種に対するユーザーや販売現場の不満は根強く、各車種とも発売後に数回にわたり改善を施したが、完全に刷新することはできなかった。
しかし同じ低価格車でも、軽自動車は、小型車と違って質感をあまり下げなかった。コスト低減は行ったが、分からないよう上手に対処した。そのためにリーマンショック以降、軽自動車の売れ行きには一層の弾みが付いた。2000年代の前半は、新車販売台数に占める軽自動車の割合は30%だったが、2010年以降は37%前後に高まり、2014年には40%に達した。今は37%に下がったが、軽自動車中心の売れ方に変わりはない。
日本の市場を軽く見るか、それとも真剣に向き合うのか。この違いがユーザーの共感と売れ行きで明暗を分けるのは、当然の結果であった。