粗利の少ない小型車は目に見えて感じた
クルマの開発に大きな影響を与えた景気の悪化として、バブル経済の崩壊とリーマン・ショックがある。バブル経済の崩壊は約30年前の出来事だが、アメリカの投資銀行「リーマン・ブラザーズ」の経営破綻は2008年9月だから、リーマン・ショックは比較的記憶に新しい。
この時には各メーカーとも、商品開発やモータースポーツなどの企業活動を縮小させた。その一番の犠牲になったのが日本市場だ。国内の販売総数は、1990年の778万台をピークに、バブル経済の崩壊もあって翌年から減少を開始した。リーマンショック直前の2007年には、535万台(1990年に比べると31%の減少)まで下がっていた。その一方で各メーカーとも海外市場では売れ行きを伸ばしたから、国内の販売比率は、1990年頃の50%に対して15~18%まで減っていた。
つまりバブル経済崩壊後、各メーカーが20%以下に下がった国内市場を見限り始めたところで、リーマンショックに見舞われた。その結果、国内市場を一層冷遇するようになった。
この悪影響が商品の仕上がりを左右するようになったのは、2010年以降に発売された車種だ。リーマン・ブラザーズの経営破綻から1年半ほど経過して、発売される新型車の造りに粗さが目立つようになった。
商品力の低下が一番分かりやすかったのはトヨタの小型車だ。トヨタはバブルの好景気に開発された車種を含め、2000年代中盤までに発売された新型車は、全般的に上質だった。それだけに2010年から2013年頃に登場した粗利の少ない小型車では、質感の低下が一層目立った。
コストダウンは消費者にも伝わっていた
その筆頭は2010年に発売された3代目ヴィッツで、乗り心地が粗くノイズも大きかった。特に直列3気筒1リッターエンジンを搭載する14インチタイヤ装着は不快だ。インパネの周辺など、内装の質は全グレードにわたり下がった。2代目ヴィッツが上質だったこともあり、ネッツトヨタ店のセールスマンが「これでは先代型のお客様に新型への乗り替えを提案できない」と悩むほどだった。
同じ2010年に発売されたパッソはダイハツ製だが、これも悪影響を受けた。乗り心地が粗く、13インチタイヤ装着車は、操舵に対する反応が曖昧だ。路上駐車する車両を避けるため、ステアリングホイールを少し動かす時にも気を使った。開発者に話をすると「やはりそう感じますか…」と肩を落としたのを思い出す。
2011年に発売された現行アクアも同様で、ハイブリッドだからモーター駆動のみで発進した後、エンジンが始動するとノイズが急に高まった。幾何学模様のインパネも質が低かった。
2012年に発売された先代型のカローラアクシオ&フィールダーも、乗り心地、ノイズ、操舵感、インパネ周辺の質感に不満を感じた。
ほかのメーカーでは、2010年に発売された現行日産マーチが気になった。内装の質が下がり、特に後席を倒した時に露出する部分の仕上げが粗かった。乗り心地と安定性にも不満が伴った。
2012年の現行三菱ミラージュは、シートの座り心地とホールド性が悪く、燃費性能に固執した影響もあって乗り心地は硬い。ミラージュとマーチはタイ製だが、生産国の問題ではなく、本質的に造りが粗かった。
これらの車種に対するユーザーや販売現場の不満は根強く、各車種とも発売後に数回にわたり改善を施したが、完全に刷新することはできなかった。
しかし同じ低価格車でも、軽自動車は、小型車と違って質感をあまり下げなかった。コスト低減は行ったが、分からないよう上手に対処した。そのためにリーマンショック以降、軽自動車の売れ行きには一層の弾みが付いた。2000年代の前半は、新車販売台数に占める軽自動車の割合は30%だったが、2010年以降は37%前後に高まり、2014年には40%に達した。今は37%に下がったが、軽自動車中心の売れ方に変わりはない。
日本の市場を軽く見るか、それとも真剣に向き合うのか。この違いがユーザーの共感と売れ行きで明暗を分けるのは、当然の結果であった。