搭載されたV10エンジンは800馬力!
このエスパスF1、誕生の経緯は「エスパス10周年記念」だった。でも、いくらなんでも国産ミニバンの周年祝いで、フォーミュラカーのエンジンを積んだりはしないだろう。このあたりの大胆さは、かつて小型大衆ハッチバックの「サンク」を、ミッドシップの怪物ラリーカー「サンクターボ」にしてしまったルノーらしいところでもある。
そのエンジンは、1992年シーズンを戦いルノーにコンストラクターズチャンピオンを与えた “最強マシン” 「ウィリアムズ・ルノー FW14B」のRS4型3.5リッターV10で、最高出力はなんと800馬力! 巨大なエンジンのため、エスパス本来のエンジンベイには収まるわけもなく、F1マシン同様のミッドシップレイアウトを採用している。
その位置にエンジンを置いたら、ミニバンなのに前席しか座れない……と思いきや、エスパスF1が面白いのは、リアにも2座を設けていたこと。エンジンとシートの位置関係が常識外なのは、写真を見てもらうと一目瞭然だろう。ほんとうにアイデアが突き抜けている! 全開で走ったら、車内にはどれほどの音がこもるのか想像もできない。できればこのリアシートには座りたくない(笑)。
さらにエスパスF1は「お飾りのコンセプトカー」ではなかったこともスゴかった。エンジンだけでなくリアサスペンションもF1から移植、カーボンセラミックブレーキまで備えており、レーシングマシンさながらの走りを可能としていた。
その結果、100km/hまでの加速は2.8秒、最高時速は300km/hオーバーを記録。見た目はエスパスだが、中身はF1というとんでもない「マシン」だったのである。当時のプロモーションでは、4度ワールドチャンピオンに輝き、1993年シーズンはウィリアムズ・ルノーに在籍していたかの名ドライバーのアラン・プロストも、エスパスF1をサーキットで本気で振り回していたほどだ。