自由と個性を主張したデザインが多かった
各メーカー、デザインの流れというのはあって、それが持ち味であるし、最近とくに、デザインの重要性は各メーカーとも強く認識するようになっていて、力を入れる傾向にある。しかし、クルマというものはデザインが重要な要素というのは昔から変わりないわけで、今見ると斬新なものも少なくない。今回はアッと驚かされる日産のデザインを振り返ってみうよう。
1)パイクカー
お馴染みではあるけど、日産のデザインを語るのに外せないのが、バブルが生み出したパイクカーたちだ。該当する車種は、Be-1/パオ/フィガロ/エスカルゴ。経済の盛り上がりを背景に、予算もたっぷりあってどれも自由で個性的だ。
2)シルビア
今ではFRを活かしたドリ車やチューニングカーのイメージが強いが、元々は美しさを前面に出した2ドアクーペだ。それだけに歴代、注目すべきモデルは多い。
まずなんといっても斬新だったのが、直線と角をうまく融合させたクリスプカットを取り入れた初代で、生産もその巧妙な造形を再現すべく、殿内製作所と呼ばれる架装メーカーに下請けに出したほど。殿内製作所は日産の試作車製作も請け負っていただけに、手作業も駆使して生産にあたった。その結果、約120万円という当時としては高級サルーン並みの値付けとなってしまい、たった554台が作られたのみだった。
2代目になると、今度はアメリカ市場を意識してボリュームが大幅にアップ。背負い込んだようなリヤスタイルと、タヌキのようなフロントマスクがとてもユニークだった。
そしてデートカーとしても名を馳せたS13型シルビアのデザインは「アートフォース・シルビア」と名乗っただけに秀逸で、グッドデザイン賞を受賞したほど。ちなみに宿敵のライバル、プレリュードに対向すべく、ホンダからデザイナーをヘッドハンティングしたとされている。
3)スカイライン
クールジャパン的デザインとして世界的に評価されているスカイラインのデザイン。ハコスカなど、確かに日本人デザイナーによってしか生み出せないデザインをしているが、逆に海外のカロッツェリアがデザインしたものもある。
その代表格が、派生モデルのスカイラインスポーツだろう。アメ車的な強烈な釣り目とテールなど、非常にあか抜けたデザインを手がけたのはイタリアのミケロッティ。生産も発表もトリノショーで行なわれたほどだ。ちなみにミケロッティは1960年代当時、日野とも関係が深く、コンテッサなどを手がけている。
2000GT-Bなどでお馴染みのスカイライン2代目はイタリアのカロッツェリア、スカリオーネがスケッチを描いて、社内でアレンジしたとされる。しかし、ガンディーニとともに奇才と呼ばれ、アルファロメオ・ティーポ33など、超流麗な直線を得意としたことを考えると、実車を見るにつけ、かなり手を入れたのかもしれない。
4)チェリー
1970年に登場した初代チェリーは、当初2ドア/4ドアセダンのみで登場。こちらも丸みを帯びたボディと愛嬌のあるフロントマスクがユニークだったが、その後に追加されたクーペはプレーンバックスタイルと呼ばれる、強烈なスタイルで登場した。
5)セフィーロ
CM自粛もあって販売的にはくすぶってしまったものの、1990年に向けたセダンの既成概念を破る、滑らかなシルエットで注目を浴びたセフィーロ。デザインを担当したのは若き日の和田智氏で、その後アウディに移って、2000年代に採用されたデザインアイデンティティ、シングルフレームと呼ばれた大型のグリルをデザインしたりしている。
6)プリメーラ
セフィーロと同時期に新しい価値感をアピールしたのがプリメーラだ。セフィーロがセダンの王道だとすると、こちらはスポーティさを前面に出していた。手がけたのは、後年ジャーナリストとしても活躍した前澤義雄氏。イギリス向けの5ドアも国内で販売されたが、それまでにない新しいジャンルということもあって注目された。
7)ムラーノ
今でこそ、プレミアムSUVという言葉が普通に使われるが、クロスオーバーSUVに対して、デザイン性をプラスした先駆けが初代ムラーノ。北米専用車だったものの、優れたデザイン性で国内導入の声が高まって、日本でも売られたという経緯があるほど。
グッドデザイン賞も獲得している。2代目も同様にデザイン性は高かったが、こちらはクレイモデラーで現代の名工にも認定されている木村氏がラインを作り出すことで、絶妙なスタイルを実現した。
8)ローレル
初代は510型ブルーバードに似た、ハイオーナーカーとして登場。2代目はボリュームあるリヤゆえ、ブタケツと呼ばれ、3代目もチョイ悪な顔つきなど、トヨタにはないミディアムサルーンだった。後半は当たり障りのないデザインだったのは残念ではある。
9)フェアレディ
日本人による、アメリカ好みのデザインという宿命を背負ったのが、フェアレディであり、その後のフェアレディZである。とくに初代ZのS30型は、片山豊氏のジャガーのようなスタイルという指示によって生まれたものだが、物まねになることなく、コンセプトだけをうまく昇華させてまとめているのはさすがだ。
10)キューブ
車名にもなっている四角いスタイルだけでなく、2代目はリヤハッチが左右比対称というのは、カーデザインのなかでも異色とされ、注目を浴びた。
3代目はキープコンセプトながら、フロントまわりを若い女性デザイナーが担当し、サングラスをかけたブルドックというコンセプトでまとめあげている。またフロントグリルはコンセントがモチーフだ。ちなみにカタログも世界観を大事にするため、女性デザイナーがデザインをしている。
11)エクサ
未来的というか、宇宙的なスタイルで、今でも話題に上ることが多いのが、2代目のエクサだ。初代もコンパクトで角張ったスタイルだったが、2代目になってそのエッセンスが高められて登場した。また、ユニークだったのが脱着可能なリヤのキャノピーで、ワゴンやピックアップみたいに自在にスタイルを変化させることができた(日本仕様は不可能)。
それゆえ、日本カー・オブ・ザ・イヤーにもサニーベースの兄弟車とともに輝いている。デザインはアメリカ西海岸のデザインセンターによるもので、海外拠点が手がけた先駆車的な存在でもある。
以上、今回取り上げたもの以外に、秀逸なデザインはたくさんある。たとえばマーチの初代はジウジアーロが担当し、2代目はデジタルデザインを先駆けて採用。3代目は水面から顔を出すカバというコンセプトでうまくまとめあげている。
ただ一時元気がなかったのも事実で、最近また日産デザインに個性が出てきているだけに、今後もぜひ「あっ」と驚くものを我々に見せてほしいものだ。