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振り返れば「ここまでやるか」の衝撃! 歴代ホンダ・タイプRの「濃すぎる」中身

初代NSXから「タイプR」全9モデルを振り返る

 軽トラックの「T360」とオープンスポーツの「S500」で四輪車事業に進出したのが1963年。その前年にあたる1962年に鈴鹿サーキットを完成させ、1964年にはいきなりF1へ参戦。翌1965年の最終戦メキシコGPで初優勝を遂げるなど、その黎明期よりモータースポーツと縁の深いホンダ。その熱いレーシングスピリットを市販車で体現したのが、サーキットオリエンテッドなホットバージョン「TYPE R(タイプR)」である。

 そんなタイプRの歴史を、原初のNA1型「NSX-R」から先代FK2型「シビック・タイプR」まで振り返ってみよう。

NSXタイプR(NA1・1992年)

 量産車世界初のオールアルミモノコックボディを採用したのに加え、「人間中心」の運転環境を構築した画期的なコンセプトで、世界中のスーパースポーツカーに大きな影響を与えたNSX。それをベースに、レーシングカーのチューニング理論を随所に応用したピュアスポーツモデルとして開発されたのが、最初のタイプRとして誕生した「NSX-R」だ。

 ボディ以外にもアルミを多用することでスチール製より200kg軽量化したというNSXからさらに、アルミ製バンパービームとドアビーム、レカロ製CFRP(炭素繊維強化樹脂)フルバケットシートとエンケイ製超軽量アルミホイールなど、軽量素材への材料置換を積極的に推進。遮音材や制振材、快適装備の削減なども合わせて、一部補強も加えながら、ベース車に対し120kgもの軽量化を実現した。

 そして、ホイールアライメントの見直しを含めてサスペンションを全面的に強化。最高出力280ps/7300rpmと最大トルク30.0kgm/5400rpmを発するC30A型3.0L V6 DOHC VTECエンジンも、クランクシャフトのバランス精度向上、ピストン・コンロッドの重量精度向上が図られた。

 そのほか、5速MTの最終減速比は4.062から4.235へとダウン、LSDのプリセット荷重をアップし、ブレーキの耐フェード性を高めるなど、サーキット走行を主眼としたチューニングが多岐にわたり行なわれている。

 また内外装には、F1初優勝を遂げたRA272の日の丸カラーをモチーフとして、赤のHマークエンブレム(通称「赤バッジ」)を採用。「チャンピオンシップホワイト」のボディカラーと赤のシート生地をイメージカラーとしたこのモデルは、街乗りでの快適性は少なからず犠牲にされていたものの、サーキットにおいては国産車トップクラスの速さと操りやすさ、楽しさを高次元で兼ね備えていた。

インテグラ・タイプR(DC2/DB8・1995年)

 NSX-Rはサーキットを本気で走る富裕層のためのスーパースポーツであり、車両本体価格は1000万円を超える水準だった。そして第2弾のタイプRは、コンパクトかつスタイリッシュな3ドアクーペ(DC2)と4ドアハードトップ(DB8)の3代目インテグラをベースに、車両本体価格帯は220万円強と、若者でも手が届き実用性も高い本格スポーツカーとして1995年8月に生を受けた。

 NSX-Rほど高価な素材は使えないものの、軽量化、ボディ・シャシーの強化、5速MTのローギヤ化、ヘリカルLSDの採用、エンジンの高精度化、チャンピオンシップホワイトのボディカラーに赤のレカロ製(セミ)バケットシートといったチューニングメニューに加え、大型リヤウィングなどのエアロパーツを装着するなど、空力性能の強化も図られた。

 そして、B18C型1.8L直列4気筒DOHC VTECエンジンに、専用のピストンとカムシャフト、インテークおよびエキゾーストマニホールド、ECUを与えるとともに、ポート研磨およびマイクロメーター測定による高精度なコンロッドボルトの締め付け工程を手作業で実施。この「B18C 96 spec.R」は、ベースエンジンよりも20ps高い最高出力200psを、8000rpmという超高回転で達成した。なお最高トルクも、同じく0.7kgm高い18.5kgmを7500rpmで達成している。

 しかしながらこのインテグラ・タイプR、回頭性重視のサスペンションセッティングに加え、四輪ダブルウィッシュボーンながらリヤサスペンションのストロークが不足気味で、ボディ・シャシーの剛性も不充分といったベース車の問題もあり、オーバーステア傾向が強く乗り手を選ぶ仕上がりとなっていた。

 そこで、1998年1月のマイナーチェンジではサスペンションセッティングをやや安定性重視に変更するとともに、リアロアアームパフォーマンスロッドの板厚アップなど計4個所のボディ強化を実施。タイヤサイズを195/55R15から215/45R16に拡大しつつホイールの締結を4穴から5穴に変更し、ブレーキローターを前後ともサイズアップした。

 「B18C 98 spec.R」と名付けられたエンジンも、エキゾーストマニホールドを完全等長の4in1タイプとして、最大トルクを19.0kgmに高めつつ発生回転数を6200rpmに下げるなど、より扱いやすい特性に改められている。

シビック・タイプR(EK9・1997年)

 初代インテグラ・タイプRより2年遅れて1997年8月に誕生したシビック・タイプRは、よりコンパクトな3ドアハッチバックボディに185ps/8200rpm&16.3kgm/7500rpmを発する専用チューニングのB16B型1.6L直列4気筒DOHC VTECエンジン+5速MTを搭載するため、インテRの弟分に位置付けられる。

 しかしながら、そのベース車は6代目EK型シビックで、EG型5代目シビックと基本設計を同じくする3代目インテグラをベースとしたインテRよりも、一世代新しいものとなっていた。

 ホイールベースはDB8型インテR4ドアと同じ2620mmながら全長は4180mmと345mmも短く、全高と全幅はほぼ同じ。そしてリヤサスペンションのロアアーム長が65mm延長され、ボディ剛性も全面的に高められるなど、ベース車の時点で大きな進化を遂げていた。

 これがタイプRの走りにも大きく影響し、パワートレインと固められたサスペンションに対しボディ・シャシーが負け気味だったインテRに対し、シビックRは約200cc小さいエンジンに一世代新しいボディ・シャシーとの組み合わせで、より操縦安定性が高くパワートレインのポテンシャルをフルに引き出しやすいホットハッチに仕上がっていた。

インテグラ・タイプR(DC5・2001年)/
シビック・タイプR(EP3・2001年)

 DC5型インテグラ・タイプRは2001年7月、EP3型シビック・タイプRは同年10月に発売されたが、いずれも2000年9月に発売された7代目EU型シビックをベースとしている。

 この世代ではプラットフォームのみならずパワートレインも全て一新され、ポテンシャルが大幅に底上げされたことで、サーキットのみならず街乗りでも扱いやすいタイプRへと進化を遂げた。

 エンジンは両車とも新開発のK20A型2.0L直列4気筒DOHC i-VTECとなり、インテグラ・タイプRは220ps/8000rpmと21.0kgm/7000rpm、シビック・タイプRは215ps/8000rpmと20.6kgm/7000rpmを発生。高回転高出力型NAの性格は同様ながら中低速トルクも充分以上に太く、これにクロス&ローレシオの6速MTと組み合わせることで、ほぼ非の打ち所のない完成度を備えていた。

 ボディは低床フロア化されつつも剛性が大幅にアップし、サスペンションは四輪ダブルウィッシュボーンから、フロントが「トーコントロールリンク付きストラット式」、リアが「リアクティブリンク付きダブルウィッシュボーン式」に一新。乗り心地と静粛性を劇的に改善しつつ、居住空間と荷室容量も拡大している。

 インテグラ・タイプRとシビック・タイプRの違いは主にタイヤサイズとブレーキ、パワーステアリングで、タイヤはインテRが215/45R17なのに対し、シビックRは205/45R17タイヤを装着。ブレーキはインテRがフロントにアルミ対向4ポットのブレンボ製ブレーキキャリパー&ディスクを採用するのに対し、シビックRは片持ち2ポットとされた。パワーステアリングも、インテRは油圧式、シビックRは電動式と、異なるシステムが用いられている。

 このほかインテRは前後左右にロアスカート、バックドアに大型リヤスポイラーを装着するレーシーな3ナンバーサイズの3ドアクーペだったのに対し、シビックRはエアロパーツも控えめなワンモーションフォルムで5ナンバーサイズの3ドアハッチバック。生産拠点もインテRが日本、シビックRがイギリスと異なっていた。

NSXタイプR(NA2・2002年)

 2001年12月にリトラクタブルヘッドライトを固定式に改めるという最初で最後の大規模なフェイスリフトを実施したNSX。そのC32B型3.2L V6 DOHC VTECエンジン+6速MT搭載車をベースとして、新たなNSX-Rが2002年5月に誕生した。

 チューニングメニューの多くはNA1型NSX-Rを踏襲したものであるが、もっとも決定的に異なるのは、このNA2型NSX-Rで初めて採り入れられた「空力操安」という概念だ。具体的には、フロントバンパー開口部を減らすことでボディ内部への空気の流入を減らすとともに、エアダクト付きCFRP製ボンネットとフィン付きアンダーカバーによってフロントのマイナスリフトを達成。

 リヤも同様にディフューザーとCFRP製ウィングでマイナスリフトを実現している。これにより、高速域でタイヤの接地荷重を高め直進安定性を確保する一方、サスペンションは回頭性重視のセッティングとして低中速域での旋回性能を向上させた。

 タイヤもドライグリップをより重視した、NSX-R専用スペックのブリヂストン・ポテンザRE070を標準装着。これも、全速度域で旋回性能を大幅に高めるのに寄与している。

 この頃には400ps超のエンジンを搭載しアルミやCFRPなどの軽量素材を採用する海外のスーパースポーツも珍しくなくなっていたが、それらのホットバージョンにも見劣りしない運動性能と操りやすさ、そして走りの楽しさを、NA2型NSX-Rは兼ね備えていた。

シビック・タイプR(FD2・2007年)

 歴代タイプRの中でもっともスパルタンなのが、8代目FD型シビックをベースとしたこのFD2型シビックRだろう。インテグラが2006年6月に生産終了となり、さらに日本国内ではシビック自体のボディタイプが4ドアセダンのみに絞られた影響で、2007年3月にデビューしたFD2型シビックRもそのセダンをベースとすることになった。

 そのため、ボディサイズは大幅に拡大され車重もDC5型インテRより90kg増加。しかしながらパワートレインは5ps&0.9kgmアップしつつもK20A+6速MTという構成は変わらなかった。

 そこで、さらなる速さを獲得するのに、サスペンションを固めつつリヤの伸び側減衰力を高めることで接地性をアップ。タイヤも225/40R18のブリヂストン・ポテンザRE070を採用したことで、旋回性能が大幅に向上した。

 しかしその代償として、乗り心地が劇的に悪化。路面のわずかな凹凸にも敏感に反応し、強烈な突き上げとともにリヤが跳ねる、同乗者はもちろんドライバーにも優しくない乗り味になってしまった。

シビック・タイプRユーロ(FN2・2009年)

 8代目シビックは日米と欧州とで異なるプラットフォームを用いていたが、このシビックRユーロは、センタータンクレイアウトにフロントがストラット式、リヤがトーションビーム式のサスペンションを持つ、フィットに近いメカニズムの欧州仕様をベースとした3ドアハッチバックだ。

 4ドアのFD2型シビックRとの関係性は、先代のDC5型インテRとEP3型シビックRに近いもので、K20A型エンジンは201ps/7800rpm&19.7kgm/5600rpm、フロントブレーキキャリパーは片持ちの2ポットで、タイヤも225/40R18のブリヂストン・ポテンザRE050Aと、やや控えめかつ街乗りにも配慮したものとなっていた。

 国内デビューした2009年11月には2010台、10年10月には1500台の台数限定モデルとして、日本では販売された。

シビック・タイプR(FK2・2015年)

 日本では8代目の生産終了とともにシビックは一旦姿を消したものの、その他の市場では2011年以降順次9代目にフルモデルチェンジし販売が継続された。だがモデル末期となる2015年10月、この9代目シビックをベースとしたタイプRを、750台限定で日本でも販売することが発表された。

 このFK2型シビックRは欧州仕様5ドアハッチバックをベースとしており、そのプラットフォームはFN2型シビックRユーロの進化形だ。しかしエンジンは直噴ターボ化されたK20C型となり、最高出力は310ps/6500rpm、最大トルクは40.8kgm/2500-4500rpmへと劇的に性能がアップした。

 それに合わせてシャシーも全面的に強化。ナックルとストラットを分離した「デュアルアクシス・ストラット・フロントサスペンション」、ロール剛性を177%向上させた「クラッシュドパイプ・トーションビーム・リアサスペンション」に加え、電子制御ダンパーを採用。

 タイヤは235/35ZR19のコンチネンタル・スポーツコンタクト6が標準装着された。ボディも、フロントまわりに補強材を追加しつつドア開口部などに構造用接着剤を使用するなど、剛性アップが図られている。

 これらのチューニングを受けたFK2型シビックRは、ニュルブルクリンク北コースで当時のFF量産車最速となる7分50秒63をマークする実力を得るに至ったが、価格も大幅に上昇。FN2型シビックRユーロ2010年モデルより128万円も高い、428万円のプライスタグを提げるようになり、動力性能面でも価格面でも、もはや若者に手が届くスポーツカーでは完全になくなってしまった。

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