障がい者の活動の場を広げる自操式車両
身体に障害を持つ人が自ら運転する場合に操作をするための補助装置がある。それを自動車メーカーが開発・製造しているのはホンダだけだけで、現行車ではフィットに「Honda・テックマチックシステム」として紹介されている。これを手本に、どのような装置があるのかを検証してみたい。
両足が不自由な人は手で加減速を行なう
車いすを利用する人は下肢が不自由だが、両足ともに不自由な人と、片足のみ不自由な人がいる。両足が不自由な場合は、手でのハンドル操作に加え、加減速の操作も手を使って行なえるようにする装置がある。
運転席の右脇に、センターコンソールのいわゆるシフトレバーとは別のコントロールグリップと呼ばれる装置を取り付け、これを使って左手でアクセル/ブレーキの操作を行なう。手前に引くと加速(アクセル)で、前方へ押すと減速(ブレーキ)が働く。それぞれレバーの移動量によって、加減速の強さを調節する。
コントロールグリップには、いくつかのスイッチが取り付けられている。ブレーキロックスイッチ/ハザードスイッチ/ウインカースイッチ/ライトスイッチ(ハイ・ロー切り替え)/ホーンスイッチで、ほかにコントロールグリップを使わず通常のペダル操作で運転する場合に、間違って動かしてしまわないようにするための固定ボルトを装備する。
ハンドル操作は右手で行なうことになるので、片手で操舵できるようにするハンドル旋回ノブが用意されている。
これらを利用する際に、間違ってペダルに足が触れてしまうのを予防する「ペダル誤操作防止プレート」を床に取り付けることができる。折りたたみ式のため、ペダル操作をして運転する際には、床へたたみ込める。
右足が不自由な人向けの「左足用アクセルペダル」
片足が不自由な人で、とくに右足を使えないとペダル操作ができないので、左足でアクセル操作をできるようにする左足用アクセルペダルが設定されている。この場合、右側のペダルでの誤操作を防止するため、右ペダルの固定機構を備える。
右のアクセルペダルの動きを左へ伝える機構を調整することにより、通常どおり右のアクセルペダルで運転することもできるようにもなっている。
片手が不自由な人はハンドル旋回ノブと左手用のレバーで解決
次に、片手が不自由な人には、先に紹介したハンドル旋回ノブを利用することで、片手でのハンドル操作を可能にすることができる。このハンドル旋回ノブは、ハンドルの左右どちら側へも取り付け可能だ。また、ノブにホーンボタンを設けた仕様も選べる。
加えて、左手でウインカー操作をできるようにする、左手用ウインカーレバーも設定されている。
障害の重さや、動かせる手足の範囲や量は、一人ひとり異なるので一概にはいえないが、それぞれの操作にある程度の慣れが必要ではあるものの、操作は案外難しくはなく、じきに慣れてしまうだろう。
テックマチック・システムの価格は、手で加減速などを調節するコントロールグリップは、27万5000円するが、ほかは数万円から10万円以下の価格設定(消費税込み)なので、それほど縁遠い装備ではないのではないか。ただし取り付け費用は含まれない。取り付け作業の時間は、コントロールグリップで約3時間40分、その他は1時間前後かそれ以下で終わる。
運転の喜びは、操縦安定性や動力性能といった車両性能だけで語られることが多いが、ホンダのテックマチックシステムの取り組みは、より多くの人へ、その喜びの機会を提供しようとする自動車メーカーの姿勢を示すとともに、それを視野に開発されたホンダの自操式車両(新型フィット)は、誰にとっても快い走りのクルマに仕上げられているともいえる。
車いすを車内に積み込む装置も重要
最後に、普段乗っている車いすを車内へ載せるには、かなり腕力を必要とする。車いすは5~10kgほどの重さがあるからだ。そこで、車椅子を車内へ取り込む器具がある。クレーン方式のもの、そして屋根のキャリアへ収納するものなどだ。
またクレーン式にも、後席へ収納する装置と、荷室へ入れるための装置がある。後者の場合は、介助する人が同乗の場合だろう。
運転のための装置や器具を揃えても、車いすを持ち運べなければ、目的地でクルマを降りた後の移動に困る。車いすをどのようにして運ぶかは、重要な課題だ。