何と59年も続く、スズキの由緒ある名車にクローズアップ
黎明期から続く各自動車メーカーのラインアップを振り返ると、すべてを語り尽くすには相当の時間を有するほど様々なモデルが発売されてきた。何度もモデルチェンジを繰り返しながら長く販売されているメーカーを代表する車種もあれば、1代限りでその名が消滅した短命な車種、先日デビューしたダイハツ・タフトのように同じ車名で復活した車種もある(初代は本格派4WD)。
各メーカーの車名に関してもその歴史を見てみると面白く、スカイラインやカローラのように長く同じ車名を使い続けるクルマもあれば、先日デビューしたダイハツ・タフトのように一度消滅してまた同じ車名で復活するクルマもある。
一度も名前を変えずに現在も販売されているクルマで、最も歴史が古いのがトヨタ・ランドクルーザー(1954年に初代・ジープBJ型から改名)。日産だと1957年に登場し、その後国産スポーツカーの地位を確立したスカイライン。いずれも60年以上の歴史を持つ、各社を代表する名車である。
ではスズキはどうかと言えば、意外にも商用車。最近は海外でも注目を集めている軽トラック、キャリイだ。初代のスズライト・キャリイが発売されたのは1961年と、現在販売されている11代目まで59年もその名を継承し続けている。
現在も継続して販売しているスズキ車の中では最も歴史が長く、幅広い世代に親しまれている1台だ。今回は長きに渡り愛されているキャリイの歴史にクローズアップして、どのように進化を遂げてきたかを追う。
初代スズライト・キャリイ(1961-1965年)
織機とオートバイの製造を経て、1955年に同社初となる四輪自動車「スズライト」を発売したスズキは、市場のニーズもあり、ライトバン仕様のスズライトとは異なる商用車の開発を進めていく。
当時はダイハツ・ミゼットやマツダ・T360のような軽オート三輪が主流だったが、スズキは1961年に四輪構造の軽トラック「スズライト・キャリイ」を発売。頑丈なラダーフレームとリーフスプリング(前後)の採用により、仕事などで酷使する機会が多い商用車としての耐久性を向上させた。エンジンは直列2気筒の2ストロークで、2輪車の技術を応用してキャリイのために開発された。出力を重視して、高回転型となっているのが特徴だ。
スタイリングは今の軽トラとは違ったボンネットタイプとなり、今見ると可愛らしい。しかしボンネットの中にエンジンがあるわけではなく、エンジンはシートの下に設置された。
余談だがスズライト・キャリイの開発にあたり、愛知県内に専用の工場を急ピッチで建設。その指揮を執ったのが、現在スズキ会長を務める若き日の鈴木修氏であった。
2代目スズライト・キャリイ(1965-1969年)
スタイリングは初代のキープコンセプトとなるが、中身が大きく進化した2代目スズライト・キャリイ。エンジンは初代と同じくFB型を採用するが、新たに「スズキCCI」方式を導入。クランクとシリンダーに直接オイルを送り込む当時としては画期的な直接給油方式で、オイルの消費を抑える、高速走行時の耐久性向上など多くのメリットが得られた。
足まわりはリアだけはリーフスプリングだが、フロントはダブルウィッシュボーン式を採用したことでクッション性が良くなり、乗り心地も向上。
積載スペースの確保を追求したのも2代目の特徴。全長は初代と同じながら、ホイールベースを広げてオーバーハングを詰めることにより、荷台の長さを175mm延長することができた。またホイールは12インチから10インチにサイズダウンし、小回りが良くなった。
さらに荷物が積める軽トラと4人乗車できるライトバンの良さをいいとこ取りした、幌付きの4人乗り仕様も設定。これは荷台の最前部に折り畳み式のシートを2脚設置しているのだが、安全性の観点から今の時代では実現不可能だろう。
なお1966年に3代目キャリイが発売されたが、1969年にフルモデルチェンジするまで2代目も併売された。
3代目キャリイ(1966-1969年)
3代目から「スズライト」が取れ、名称はキャリイとなった。スタイリングは大幅に変わり、今の軽トラに近いフルキャブタイプに進化。2代目との大きな違いは、積載スペースがさらに広くなったこと。荷台長は1770mm(2代目1390mm)、荷台幅は1210mm(2代目1200mm)と、より多くの荷物を積めるようになった。
2代目はタイヤハウスのスペースを確保するために荷台の左右がかさ上げされていたが、3代目からフラットになって積載スペースのムダがなくなった。荷物の積み降ろしがラクな、低床設計なのも魅力的だった。
また2代目までは後方のあおりしか開閉しない一方開きだったが、3代目から一方開きに加え左右のあおりも開く三方開き仕様も登場。大きな家具や畳などを、スムーズに積み降ろしすることが可能となった。
エンジンとミッションは2代目と共通。しかしリアのサスペンションはリーフではなく、乗り心地の向上や荷台の高さを抑えられるなどのメリットがあるド・ディオンアクスル方式を採用した。しかしそれ以降のキャリイは、リアの足まわりをリーフサスペンションとしている。
内装はインパネ上部を黒で仕上げて光の反射を抑え、計器類は事故での衝撃を和らげるため凸型形状とするなど、安全性にも配慮した設計となっていた。なお2代目同様に、幌付きの4人乗り仕様が設定されていた。