GRヤリスがラリー界で特異なワケ
1月の東京オートサロンで初公開されて以来、国内外で注目を集めているGRヤリス。1600ccのターボエンジンを搭載した4WDモデルであることから、モータースポーツシーンでの活躍が期待されており、事実、トヨタのワークスチーム、トヨタGAZOOレーシングはGRヤリスをベースにしたWRC専用モデル「GRヤリスWRC」の開発に着手している。
だがそもそもWRCのトップクラスに参戦するワールドラリーカー、通称“WRカー”とはどのようなマシンなのか? ここでは気になる改造範囲を筆頭に、WRカーのポイントを解説したい。
WRカーのベース車は派生車2500台でOK
まず、WRカーとはFIA(国際自動車連盟)の車両規定、ワールドラリーカー規定に基づいて開発されたマシンのことで、同規定は1997年のWRCに導入された。
それまでのグリープBに代わって1987年に採用されたグループA規定はホモロゲーション(国際公認)の取得の条件や改造範囲の制限が厳しく、自動車メーカーにとって高いハードルになっていたことが影響したのだろう。WRカー規定では数多くの自動車メーカーの参戦を促すべく、ネックになっていた厳しい条件が緩和されていた。
まず、ホモロゲーションを取得する際の条件として、グループAではベース車両の生産台数が連続する12ヶ月間に5000台以上の実績が必須で、1993年からは2500台以上に緩和された。
しかし、WRカー規定では年間2万5000台以上の生産モデルの派生車であれば、2500台以上の生産でホモロゲーションの取得が可能。この結果、4WDモデルやターボモデルなど生産数の少ない特殊なスポーツモデルではなくてもベース車として使用でき、4WDなどに改造できることになったのがWRカーのポイントと言えるだろう。
車両改造範囲も広いWRカー
また前述のとおり、改造範囲が広いこともWRカー規定のポイントである。
気になるエンジンは、現在、1600ccの4気筒直噴ターボが採用されているが、これはGRE(グローバル・レース・エンジン)と呼ばれる競技専用のユニットで、4WD化を果たした6速シーケンシャルギアボックスをはじめ、電子制御式のセンターデフを含めて駆動系も競技専用ユニットを採用。足回りもマルチリンクからストラットに改修できるなど構造変更も可能で、当然ながら、サスペンションストロークを拡大したダンパーやハブ、アーム類、ブレーキシステムも競技専用のアイテムだ。
さらに前後のバンパーやリヤウイング、ワイドフェンダー、リヤディフューザーなどのエアロパーツも専用ユニットで、レーシングカーのように空力性能を追求した大胆なフォルムもWRカーの特徴と言っていい。
もちろん、ウインドスクリーンのポリカーボネート化やエアロパーツのカーボン化など材質置換で軽量化を追求。ベース車両からキャリーオーバーされているものは、ホワイトボディのみで、それ以外、ほぼ全てのパーツが競技専用のパーツとなっているのである。
このため、市販モデルの段階で高いパフォーマンスが求められていたグループAに対して、WRカーでは大衆モデルを競技専用のモンスターマシンに仕上げることが可能なのだ。
現在WRCに参戦しているメーカーも、トヨタ・ヤリス(日本のヴィッツ)、フォード・フィエスタ、ヒュンダイ・i20クーペといったように限定のスポーツモデルをベースにWRカーを開発しているわけではない。
派生車ではないGRヤリス
しかし、トヨタはそんな状況のなか、あえて次期モデルのベース車両としてGRヤリスを選択した。GRヤリスはトヨタ・ヤリスの派生車ではなく、別モデルとなることから、ホモロゲーションを取得するためには、2万5000台の生産実績が求められるのだ。
新たなモデルであるGRヤリスはいちからの開発となることから、多くのリソースが必要となるのだが、それでもトヨタはグループA時代の理念に基づくかのように、このWRカー規定においても高いパフォーマンスを求めてGRヤリスの投入を決断したというわけだ。GRヤリスのカーボンルーフは軽量化に最適で、リヤエンドの下がったルーフデザインも空力デザインの最適化に効果を発揮するに違いない。
とはいえ、そのGRヤリスWRCは2021年のデビューに向けてフィンランドやスペインでテストが行われていたのだが、新型コロナウイルスによる活動自粛の影響で開発がストップ。チームの公式SNSによれば「今後はテストデータを2022年規定モデルに活かしたい」とのことで、2021年の投入を見合わせたようだ。