キャンプでのリスクマネージメント
ここ数年、再ブームの到来との呼び声も高いのがキャンプ・アウトドアです。新型コロナで軒並み売上が減少するアパレル業界で、アウトドア商品を展開したワークマンは売上を19%(5月の前年同月比)も伸ばしたといいますから人気の高さが伺えます。Amazonではハスクバーナの斧に2000件以上、モーラナイフには3000件以上のレビューが付いているほどです。
斧やバトニングで薪を割り、焚火で料理する。日常では味わえない野生の喜びが目覚める格別な時間です。⋯が、ケガや事故についてどの程度リスクマネージメントを行なっているでしょうか。ネットでもキャンプのハウツウやツール・ギヤ紹介、料理レシピなどは盛りだくさんですが、リスクマネージメントについて詳細に解説しているサイトはあまり多く見受けられません。
知識として知っているだけでもリスクは大幅に下がります。逆に知らなければ自分や他人を重大なインシデントに巻き込みかねないのが事故防止のリテラシーなのです。
工事・作業現場では常識の『危険予知』で事故を未然に防止しよう
工事現場や工場などブルーカラーの現場を経験したことのある人はご存知かもしれませんが、作業現場には事故のリスクが無数に転がっており、KY活動(危険予知の意味です)が徹底されています。実際に、どのような事故が報告されているかのヒヤリ・ハット事例が厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に掲載(397件・平成31年4月25日現在)されていますのでぜひ一度のぞいていただくことをおすすめします。
例えば、「転落」という項目では、荷物の運搬中に足を滑らせた、といった例もあり、足場の良くない場面に遭遇するかもしれないキャンプ場でも起きてしまいそうな事例もあります。ハインリヒの法則では、1件の事故の影に29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハットがあるとされ、このヒヤリとした体験の段階で対処することが事故防止につながるとされています。では、危険予知や安全教育を受けていない人であっても、どのようにキャンプに活かせばよいのでしょうか。
「怖い」と感じたら危険が潜む 想像力を総動員して周囲を観察しよう
テント場にテーブルを設置するとき、地面が緩んでいたらテーブルや椅子の脚がズブッと潜ることがあります。もし、誰かが立ち上がる時にテーブルに手をかけたら料理中の高温の油や鍋のスープを頭からかぶることになるかもしれません。しっかりとした場所に設置するか、割った薪の一部を地面に埋設し、その上に脚を乗せるなどの対策を講じていれば防げたかもしれません。
こうした危険予知の想像力とは観察力・洞察力のことです。ナイフを「ここに置きっ放しは危ないな」と思ったら、シースに戻して安全な場所に置くことです。ペグを打つハンマー作業者の作業半径に入らない。ナイフや斧のブラッド・サークル(刃が届く円陣内)に入らない。とくに、斧は握っていた手が滑ってすっぽ抜けることもあります。
キャンプ用の小型の斧は薪がブナ材などの硬いものだとなかなか割れず、フルスイングしてしまいがちです。すっぽ抜けた斧の延長線上に人がいたら重大な事故が起きます。斧のブラッド・サークルは最低でも10mといわれるのはこのためで、キャンプ場が混雑しているときや、近くに人がいる場所ではフルスイングするような使い方をするべきではないということがおわかりいただけるかと思います。
斧のフルスイングはハンドル材を折ってしまうこともあり、当然ながら折れたら斧のヘッドが何処かに飛んでいってしまいます。そこに人がいないことを祈るばかりです。