排気慣性を利用するには長いほうが有利
エンジン性能を引き出すためのチューニングのファーストステップとして選ばれることが多いアイテムといえば、スポーツマフラーと答える人は多いだろう。性能アップはもちろん、サウンド面での変化もユーザーの心を掴んできたチューニングだ。
もっとも、平成28年騒音規制車においては、たとえスポーツマフラーに交換したといえども、新車時に定められた騒音値を超えることはNGとなっている。そのためスポーツマフラーといっても、エンジンパフォーマンスを引き出すというよりはチタンなどの材料を使うことによる軽量化や、リアバンパーとの合わせ技でのドレスアップ要素のほうが大きくなりつつあったりする。
とはいえ、平成28年騒音規制以前のモデル、とくに旧車では当時の基準が適用されるので保安基準を満たす範囲であれば、スポーツマフラーでサウンドを楽しむことも違法ではないし、パワーアップを狙うことも難しくない。
では、そうした比較的制限の少ないスポーツマフラー選びにおいて、エンジン性能を引き出すために、気を付けるべきポイントはパイプの太さと長さだ。そして、古くからのユーザーの中には、「長さは意味がない」だとか「音と太さは関係ある」と主張する人もいる。はたして、マフラーのパイプ径やパイプ長はエンジン性能にどのように影響を及ぼすのだろうか?
細いと流速が高まり、太いと流量が増える
まずはマフラーの太さから考えてみよう。一般論としてマフラーの太さについてはパイプ径で話をすることが多いが、流速の点からポイントになるのは断面積だ。なぜなら流速は「流量÷断面積」で導かれるからだ。同じ流量であれば、断面積の大きな太いパイプでは流速が遅くなり、細いパイプでは流速が速くなる。たとえば、内径50mmと内径60mmを比べると、直径は1.2倍だが、断面積は1.5倍となる。そして、流速は50mm径のほうが約1.4倍速い。
流速が稼げるマフラーのメリットは、排気にイナーシャをつけてシリンダーから掃きだす効果があること。太いマフラーをつけて「低速トルクが失われた」と指摘する声があるのは流量自体の少ない領域において流速を十分に稼ぐことができず、そこでの性能が落ちてしまっていることを示している。つまり、状況によっては細いマフラーのほうが性能を引き出せることもある。
ただし、ピークパワー領域でのパフォーマンスを高めるのであればマフラー本来の目的は流速ではなく、流量を稼ぐことになる。極端に細いパイプでは排気として流れてくる量を捌けなくなり、そこがボトルネックとなって性能上限が決まってしまう。
つまり、マフラーのパイプ径というのは、「どの領域での性能を重視するのか」という点と、「最高出力領域での流量を確保する」という2点のバランスから最適値が導かれる。すべてのエンジンに共通のベストなパイプ径があるということはない。