パイプの長さは排気脈動効果に影響を及ぼす
さて、マフラーの長さを理解するキーワードは『排気慣性』効果だ。物理の基本で言えばパイプが長ければ、それだけ中に入っている流体の量も多くなっている。そうなると、坂道を転がる雪だるまのように、排気バルブが閉じて排気が流れてこない状況になっても、流速を維持してどんどん出口に向かっていく慣性が発生する。そうなるとバルブ近辺からパイプ内圧力が低下していくため、次に排気バルブが開いたときに勢いよく吸い出すことができる。
これが「排気慣性」効果の典型だ。極端に短いエキゾーストではイナーシャが発生する前にガスが排出されてしまうため、こうした効果が期待できない。そのため、一定の長さは必要であるし、極端に短いマフラーは性能ダウンにつながりかねない。
とはいえ、ここまでの話はNAエンジンにおいて、触媒やサイレンサー(消音器)による影響や、車両に搭載することを無視した原理原則といえるものだ。実際には、マフラーは直管ではなく、いまどきであればエンジンヘッド内で排気マニホールドが集合されて、その直下に触媒が置かれているケースが多い。サイレンサーについても、数か所にレイアウトされていることが多い。
ターボや触媒などの要素が複雑に絡み合う
まして、ダウンサイジングターボの流行以降、あらゆるカテゴリーでターボエンジンが増えている。ターボチャージャーというのは、その仕組みにおいて根本的には排気抵抗になってしまう。もちろん、触媒やサイレンサーという抵抗がある公道を走るクルマではターボチャージャー以降にも排気慣性を利用することで流速を稼ぐことに意味はある、なお、クローズドコース専用のチューニングカーなどでは、ターボチャージャー以降のパイプ長を最短としていることもある。
結論をまとめれば、マフラーのパイプ径やパイプ長において、あらゆるケースでの万能的な解は存在しない。求める性能を実現するために「流速」が重要なのか、「流量」を求めたいのかによってパイプ径は選定すべきであるし、排気慣性を利用するには長いほうが有利だったりする。一筋縄ではいかないから、チューニングは苦しくも楽しいのだ。