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安易な「左足ブレーキ」推奨に異論! 高齢者の「踏み間違い」の解決策にならない理由と別の対策

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TEXT: 御堀直嗣(Mihori Naotsugu)  PHOTO: Auto Messe Web編集部、本田技研工業

「左足ブレーキ」よりも大事なこと

 高齢者のペダル踏み間違い事故が話題となって久しい。そこで通常はアクセルとブレーキを右足だけで操作するところ、「アクセルは右足、ブレーキは左足」と、ペダルを両足で踏み分けてはどうかとの声がある。だが、私は反対だ。その理由について書かせてもらいたいと思う。ペダル踏み間違い事故のイメージ写真

高齢者が新しい操作を覚えることは簡単でない

 そもそも、ペダルを踏み間違えるような身体機能や、反射神経の衰えがはじまっている身体で、左足ブレーキを使うという新しい操作を身に着けることのほうが難しく、危険を生じさせかねないと思うからである。ペダル踏み間違えによる事故を起こすような万一の際に、無意識に体が動いて操作できなければならないのに、新しく覚えた操作を無意識でできるようになるまで練習を積むことにも時間を要する。右足アクセル、左足ブレーキの実践

 ならば、いま行なっている右足でアクセルとブレーキのペダルを踏み替えを、常に意識して操作することのほうが、万一のとき自然に操作ができるようになるのではないだろうか。

衰えの自覚と意識が大切

 ペダルの踏み間違えを起こす原因は、いくつかの要素が絡み合うだろう。そのなかで、歳を重ねたことによる身体の衰えはやはり大きい。例えば平らな道や家の廊下など、なんでもないような場所で躓いた経験のある年配は多いのではないだろうか。あるいは、瞬きにさえ時間がかかるようになって、縁に体や頭をぶつけたこともあるのではないか。ペダルを踏み間違える要因は身体の衰えによる影響が大きい

 身体の老化で一番わかりやすいのは老眼だろう。人間の感覚で日々もっとも使うのが目であるからだ。またそのことを、意識させられることが多い。一方で身体の衰えは躓くなどしてその瞬間は実感しても、日常の中で忘れてしまいがちだ。

 ペダル踏み間違い事故もそれに近い状況で、運転席に座ったときは長年の経験から緊張したり意識したりせずクルマを走らせてしまうのだが、たとえばバックミラーを見たつもりでも後方確認が不十分で、そのまま車線変更をはじめようとしてクラクションを鳴らされ、ハッと自分の身体機能の衰えを実感させられるのではないか。クラクションを鳴らされハッとする高齢ドライバー

 そうした身体機能の衰えの実感は、意識しないと忘れてしまう。ならば「意識することを意識する」、つまり意識することを心掛けることで、運転中の失敗を予防できるだろう。前方を広範囲に見ているか、バックミラーは確認したか、ウィンカーは出したか、ペダルを踏み替えるために足をちゃんと上げているか、一時停止はきちんと止まり左右を確認したか…。そうしたひとつひとつの動作を意識的に行なうことで、安全確認が正しくでき、運転操作も間違いなく行なえるようになる。身体が衰えていることを意識して運転することが大事

 いざ実行してみると結構くたびれる。頭を使って意識することに疲れてしまうのだ。また、余計な時間が掛かることにもつながり、イライラもするかもしれない。しかし実際には数秒のことであり、それを怠ることで事故になれば、数時間を現場検証などに要し、その後の始末や手続きに追加の日時を費やすことになりかねない。安全運転を意識することも疲れるが、事故を起こすほうがもっと面倒

 そこを考えれば、多少面倒でも意識的に操作や安全の確認を行なうほうが、安心であり、得だろう。そしてそれが、年齢を重ねてなお運転を続ける条件になっていく。運転操作は何か特別のことを新たにするのではなく、基本に忠実に、間違いなく実行できるよう心掛けることだ。

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