正しい運転姿勢を取れるかどうか
次にクルマ側の課題も依然としてある。これは何度となく私が言ってきたことではあるが、とくに軽自動車やコンパクトカーでは、ハンドルの前後位置を調節する「テレスコピック機構」が装備されていない例がほとんどで、これによってペダルが近くなりすぎ、足の動きが窮屈になって、ペダルの踏み替えで足が上がりにくくなる高齢者では、踏み損なってしまうのである。
正しい運転姿勢は、まずブレーキペダルを床一杯まで踏み込みながら、座席の前後位置を調節する。次にハンドルの頂点を両手で握りながら、肘にゆとりができる位置に背もたれをあわせる。このとき、ハンドルにテレスコピック機能があれば、座席の背もたれとともにハンドルの前後位置を調整する。
軽自動車やコンパクトカーは、背の低い人でも運転できるように運転席が設計されている。このため、背の高い人にはペダルとハンドルの位置が体に近すぎてしまう。そこでまずペダルとの距離を基準にポジションを合わせようとすると、ハンドルが遠すぎてしまうのだ。それを正すために背もたれの角度を立てていくが、立てすぎると腰が落ち着かなくなり、体が安定しなくなる。体を安定させようと、背もたれを少し寝かせると、やはりハンドルが遠いという結果になる。
逆にハンドル位置にあわせて座席自体を前へ移動させると、ペダルが近すぎて足元が窮屈になり、足をよけいに曲げて持ち上げるようにしないと、ペダル踏み損ないや、ペダル脇に足を引っ掛けるなどをしやすくなってしまうのである。ことに高齢者は、関節の動きも硬くなり、足を持ち上げにくくなるし、持ち上げるにも時間が掛かったりするので、なおさらペダル踏み間違いをしやすくなる。
解決策は「テレスコピック機構」の装備
これを解決するにはハンドルにテレスコピック機構を設けるしかない。ところが、軽自動車とコンパクトカーを売るメーカーはやらずにいる。理由は原価が上がるからだ。唯一、ホンダN-WGNにはテレスコピックが付く。
多くの自動車メーカーとその技術者は、原価低減のためテレスコピック機構を省き、ペダル踏み間違い事故を誘発させているとも言えなくもないのである。消費者の予防策は、テレスコピック機構のあるクルマを選ぶしかない。これは、販売店に展示されているクルマで試すことができる。
ペダル踏み間違い事故を起こさないためには「左足でブレーキを踏んだ方が良いのだろうか?」と消費者を悩ませ、また事故の被害者も加害者も苦しい思いをさせる状況を、自動車メーカーはほったらかしにしているのが実態だ。それでも、いま乗っているクルマで事故を未然に防ごうと思うなら、運転操作や安全確認を常に意識して実行する。それのみである。