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同じベース車とは信じがたい「凶暴」さ! サソリマークの「アバルト」は「フィアット」の何なのか?

フィアットをベースに高性能モデルを生み出した

 ある特定のメーカーを得意とするチューニングメーカーというのは多く存在するが、フィアットであればアバルトだ。創始者、カルロ・アバルトの星座に由来かるサソリのエンブレムだけでも刺激的だし、実用車をベースにしてチューニングするという手法は世界中のクルマ好きの心を捉えてやまない。

 詳しい歴史を語りだすといくら字幅があっても足りないので、概要だけにとどめおくが、もともとはオートバイでレースをしたり、メカニックとしてマシン製作をおこなったりしていた。ちなみにイタリア人ではなく、オートスリア人である。第二次世界大戦が勃発した頃に、イタリアへと移住した。

 終戦直後は幻のメーカーであるチシタリアで働き、1950年頃にアバルトを設立して、独立。チシタリア時代に設計した車両でミッレミリアに参戦し、好成績を収めたことで一気にその名前は広がった。

 また、スポーツマフラーのメーカーとして名を上げ、マルミッタ(イタリア語でマフラー)・アバルトは高性能で高い人気を誇るとともに、メーカーとしての基盤を築きあげることに成功している。ちなみにマフラーはフィアットに吸収後の1970年代まで作られていて、ミニやビートルなど、他メーカー向けも多く作っていた。

 そのマフラーで得た利益で、車両そのもののチューニングや各種パーツをリリースしたり、レース活動を行なうようになっていく。手頃だったフィアット車を好んでベースとしていて、フィアット社とはフィアットベースの車両がレースで勝つたびに、報奨金が支払われるという契約を結んでいる。

 これにより、さらに経営は安定しつつ、フィアットのチューニング、レースと言えばアバルトというイメージが出来上がり、アバルトマジックという言葉もあったほど。正確にはオリジナルのエンジンを積んだプロトタイプもあったが、実際のところ、フィアット車をベースしたモデルは多く、チューニングキットやパーツもフィアット用が多かった。

70年代からはモータースポーツに力を入れた

 しかし1960年代後半になると、イタリアが経済危機に見舞われたことによって経営が傾き、1971年には親密な関係にあったフィアットに社名は残しつつも、吸収されてしまう。それでもアウトビアンキA112アバルトは直接手がけ、フィアットのWRC参戦を取り仕切るなど活躍。

 1979年にはカルロ・アバルトがなくなり、会社も消滅してしまうが、1980年代から1990年代初頭にかけて破竹の勢いでランチアがWRCを席巻したマシンたちもアバルトの手によるものだったりする。

 その後、市販車では不遇というか、重んじられない時代が続いたのも事実。ウーノやリトモ、初代&2代目プントなどにアバルトが設定されつつも、特別なチューニングがされていたわけでもなく、スポーツグレードにその名前が付けられていただけという寂しい感じだった。

 ただ、商標などはフィアットが所有しているわけで、往年のビッグネームを飼い殺しにしているのは非常にもったいないとこともあり、2007年にブランドとして復活。メルセデス・ベンツのAMG、BMWのMなど、各社ともスポーツラインに力を入れ始めていたのも後押ししたのもあるだろう。

復活したアバルトはサソリの紋章に恥じない過激さ

 その際の関心事といえば、フィアットを長年見続けてきた人間からすると、落としどころをどうするかということ。実用車をベースにしたアバルトマジックを現代で復活させるのかは非常に興味があることだった。環境問題などを考えると、先に紹介したウーノやリトモなどのパターンも仕方がないと思っていたのだが、それも杞憂に終わったのはご存知のところ。

 ひと言で言えば「サソリの紋章に恥じない過激さ」だろう。チンクエチェント、プント、そして124を見れば即座にわかることで、走りだけでなく、ディテールから放たれるオーラも含めたトータルでの過激さだ。とくにチンクエチェントベースでは、595/695といったグレード名やエッセエッセキットなど、随所にサソリのエッセンスが散りばめられているのにもワクワクさせられるもの。

 たとえば、今でもメーカーがこんなクルマを作って売れるんだと驚愕した「アバルト695ビポスト」のフルスペック仕様はミッションはシンクロのないドグミッション(回転合わせが必要)やアクリルのドアウインドウなど、やっちまったな感がたっぷり。

 もちろんナンバー付きで普通に公道を走ることができる(操作が大変だけど)。排気量アップも含めたメカチューンだけで、ノーマル比2〜3倍は当たり前という全盛期のアバルトを思わせる、攻めの展開にはただただ拍手。環境や資源問題優先の今、あっぱれだ。

 可愛いチンクと、それをベースにしたアバルトを対比してみると、ベースは同じクルマとはまったく思えないほど。ユーザーも前者が女性も多いのに対して、アバルトは走り好きがもちろんメイン。過激にこそアバルトの魂ありというわけで、それを忠実に現代に再現できているから、アバルト人気が現代に再燃していると言っていいだろう。

 まさに昔も今もアバルトはアバルトだ。さらにどういった展開を見せてくれるのか興味津々である。

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