世界のラリーレイドで快進撃を続けるオープンカントリー
8月某日、浅間サーキットでチームジャオスの新型ハイラックスがシェイクダウンを行った。ハイラックスといえば8月19日にマイナーチェンジしたばかりだが、これはそれよりも一足先に発売された海外仕様。とはいえ日本で新型ハイラックスをラリーレイドカーに仕立てたのはジャオスが初と思われる。なお、チームジャオスは2015年からアジアクロスカントリーラリーに参戦しており、昨シーズンの2019年はクラス優勝を果たしている。
アジアクロスカントリーラリー(以下AXCR)は、タイ、マレーシア、ラオス、ベトナムといったアジア各国を基点とし、山岳地帯やジャングルなどを2000㎞以上にわたって走破するアジア最大級の国際ラリーだ。レース環境は過酷。穴だらけのダートや岩がゴロゴロした道なき道を走り、時にはボンネット近くまで浸かる川にも突入していく。
それゆえタイムを争う競技ながら、まずはリタイヤせずに完走するだけでも難しい。特に足まわりには通常の走行とは別次元の大きな負担が掛かる。クルマを壊さず、できるだけ速くコースを駆け抜けるためには、サスペンションは当然だがタイヤのチョイスも重要になる。
そこで今シーズン、クラス連覇を目指すチームジャオスが選んだのが、トーヨータイヤの「オープンカントリー」だった。
AXCRにおいてオープンカントリーはまさに鉄板というべき存在で、2015年~2019年まで、オープンカントリーの装着車両が5回続けて総合優勝。また2019年はアメリカで開催された「Best in the Desert Vegas to Reno」、メキシコで開催された「SCORE BAJA 500」「SCORE BAJA 1000」でも、オープンカントリー装着車両が優勝という実績を残している。2018年以前もラリー優勝に導いた経歴は多数あり。
M/TとA/Tの特徴を併せ持つ「ラギッドテレイン」タイヤ
オープンカントリーはトーヨータイヤが2000年代前半、北米市場に投入したSUV向けのブランドだ。まずはそこで確固たるシェアを獲得した後、凱旋するかのように2016年から国内でも販売が始まった。今では「オープンカントリーM/T」「オープンカントリーR/T」「オープンカントリーA/Tプラス」「オープンカントリーU/T」の計4シリーズをラインナップする。
この内、今回チームジャオスのハイラックスが装着したのはオープンカントリーR/T。R/Tとは「ラギッドテレイン」の略で、トーヨータイヤ独自のタイヤカテゴリ。泥濘地で威力を発揮する「M/T=マッドテレイン」と、オン・オフ共にバランス良く使える「A/T=オールテレイン」の両方の性能を兼ね備えているのが特徴だ。ロードノイズはオフロード系タイヤとは思えないほど小さく、乗り味もしなやか。
イメージは「見た目はM/Tっぽいけど性能はA/T寄り」といった感じだろうか。一般ユーザーからすると、M/Tタイヤはゴツゴツ感や迫力が魅力だが、静粛性や乗り心地の面で不安が残る。しかしA/Tタイヤではちょっと見た目が物足りない。そこで両者のいいとこ取りをしたオープンカントリーR/Tに大きな注目が集まっている。近ごろは他社も追随の動きを見せているが、このカテゴリを開拓したR/Tの支持率は圧倒的だ。
つまりオープンカントリーR/Tは、基本はオンロード、たまにオフロードというライト層を中心に人気がある。一方で山中や河原を本格的に走り込むガチ勢なら、R/TじゃなくM/Tじゃないの、という風潮も何となくある気がする(あくまで筆者の印象)。実際、トーヨータイヤでもR/Tは「オンとオフの性能を両立」、M/Tは「オンも走れる本格オフ向け」をうたっている。
だからチームジャオスのハイラックスが、M/TではなくR/Tを履いていたのは意外だった。前述したAXCRで5連覇中の車両も、装着していたのはオープンカントリーM/Tの方だ。一体どういう意図でこのR/Tを選んだのだろうか。チームジャオスの監督であり、4WD&SUV総合パーツメーカー・ジャオスの代表取締役でもある赤星さんに話を聞いた。
ドライコンディションでは抜群のコントロール性を誇る
「AXCRは通常であれば毎年8月に開催されるのですが、その時期、現地は雨季に当たる。必然的に路面はマッド(泥濘)がメインになるため、M/Tタイヤが適しています。しかし今回は、コロナの影響で開催が12月に延期される予定です。12月は乾季。路面も比較的乾いたケースが多くなることを想定し、オープンカントリーM/TとR/Tの両方でタイヤテストを行ったんです」と赤星さん。
結果、総合的にM/TよりもR/Tの方が適している、ということになった。このあたりは2016年からチームジャオスのドライバーを務めている能戸さんの「感触」も反映されている。
「サイズ・空気圧など条件を揃えた上で両方をテストしましたが、泥濘地以外ではオープンカントリーR/Tの方がよりコントロールが効きました。見通しが悪く、どんなイレギュラーが潜んでいるか分からない環境下で走るには、思いのままに操れるこの感覚はとても心強いですね」と能戸さん。
ちなみにシェイクダウン当日、能戸さんのドライビングを新型ハイラックスのナビシートで体感する機会に恵まれた。前日は大雨だったそうだが、この日はよく晴れており、水はけの良い火山灰質の土壌はすでにドライに近かった。さてさてコントラーブルな走りとは一体どんなものか(※筆者は素人です)と、わくわくしながら4点式シートベルトを締めた。
「じゃあ軽く行きますよ~♪」という能戸さんの声で始まったコース3周のトライアル。走り出した直後から、「この速度は絶対ヤバい!」と本能的な恐怖を感じ、体内から何かが飛び出していきそうになる。しかし気付けば、「ああ、この速度でハンドルを切っても曲がるのね…」という安堵感に変わっていた。
何となくズルズル滑らせながら走るのかなと思っていたのだが、乗ってみるとあまり滑っていない。いや実際は滑っているのかもしれないし、おそらくサービス的な意味でドリフトしてくれたシーンもあっただろう。それでも随所で路面に食いつくから、モタつかずキビキビ動く。
オートマだったのでいったん低速域に落とすとパワーが出るまで一呼吸遅れるのだが、そこからはロスなくスムーズに加速する。トラクションの掛かりも良好に思えた。何よりあのスピード(100㎞/h近く出ていた)でデコボコ道を走ってコントロール不能にならないのは凄い。熟成を重ねたKYB製サスペンションや能戸さんの腕があっての話だろうが。
惜しむらくはオープンカントリーM/Tと比較ができなかったこと。あとは路面がマッドになった時にR/Tはどうなのか、という点も気になったが、状況に応じてR/TとM/Tを使い分けるなど、チームジャオスは臨機応変に動くだろう。
しかし実質オンロード向けと思い込んでいたオープンカントリーR/Tが、ここまでオフロードに強いとは思わなかった(スミマセン)。R/Tユーザーからすると何を今更という感じだろうが、これはキャンプや釣りといった身近なアウトドアでも生きてくるはずだ。よほどのヘビーユーザーでもない限り、性能的にはR/Tで十分じゃないかという気もする。
戦略的パートナーシップにより相互に高め合う関係に
トーヨータイヤとジャオスは今年4月に戦略的パートナーシップを結んでいる。それはAXCRでトーヨータイヤがジャオスにタイヤ供給するというだけの関係ではなく、相互に連携したマーケティング活動を継続的に推進していくというもの。
今回の戦略的パートナーシップにより、そうした現場重視の傾向はより加速していくものと思われる。ジャオスが長年積み重ねてきたノウハウを共有することで、これまで以上にユーザー視点に立ったタイヤが開発されることだろう。
ジャオスとしても有力なタイヤメーカーとの相互協力関係は大きなメリット。レースだけでなく、4WDのカスタマイズではタイヤが重要になる。たとえば優れたアルミホイールを開発したとしても、いいタイヤがなければその商品は売れない。逆にいいタイヤがあれば、ホイールはもちろん、連鎖的にサスペンションや外装品も売り上げが見込める。
いずれにせよ、互いに高め合える関係なら、それはユーザーにも業界にも間違いなくプラスになる。両社のパートナーシップで魅力的な商品が生まれることを期待したい。
最後にニュースを。今回のシェイクダウンの模様は動画で撮影されており、TOYO TIRESのYOUTUBEアカウントにて公開されている。非常に刺激的な仕上がりになっているので、ぜひご覧いただきたい。新型ハイラックスがいち早く泥だらけになっているシーンを見たい人にもオススメです。