専用チューニングで仕立てられた純正コンプリートカー
ホンダの純正アクセサリーブランドとして知られるモデューロ。アルミホイール、サスペンション、エアロパーツの3つを軸に、安心して使える車検対応のカスタマイズアイテムを多数ラインナップしている。
そしてモデューロパーツを一式装着した状態で販売されるコンプリートカーがモデューロXだ。車両とパーツ、取り付け工賃もセットになったパッケージなのだが、単にモデューロパーツを付けた状態でクルマごと売りますよ、というものではない。
ルックスだけでなく、空力特性やサスペンション性能を考慮し、走りまで含めてトータルプロデュース。専用のテストコースでトライアルを繰り返して、じっくりとセッティングを煮詰めて開発されたスペシャルな1台がモデューロXとなる。
だからモデューロパーツと違い、新型のデビューからしばらく経ってからの販売になるし、対応車種もかなり限られる。またモデューロXの専用パーツも数多く用意されるが、それらは基本的に単体で購入は不可。もちろん保安基準には適合しているので、車検などは問題ない。
スーパーGT供給ホイールをモチーフにした「MR-R01」
S660のモデューロXは2018年に登場。主な装備はグリル一体型のフロントバンパーやリアロアバンパー、5段階減衰力調整機構付のサスペンション、ブラックスパッタ仕上げのアルミホイール、ドリルドローター&スポーツブレーキパッドなど。
内装もシートやステアリングが専用マテリアル&カラーになり、メーターやコンソールプレートなどにモデューロXのロゴも入る。
何かと注目度が高いのは見た目の変化も大きいエアロパーツだろうが、今回は改めてアルミホイールにスポットライトを当ててみたい。
商品名は「MR-R01」。デザインは開口部を大きく取った8本スポークで、見方によっては細身の4本ツインスポークのような印象もある。軽快かつスポーティなルックスだが、それもそのはず、これはスーパーGTでNSXに供給されているレーシングホイールがモチーフ。
正確にはそれとデザインを共有する市販NSX用の「MR-R03」というモデルがあり、そのS660向けバージョンといった感じだ。
ちなみにMR-R03は鍛造製で、フロント用19インチが38万5000円/1本、リア用20インチは44万円/1本もする。
MR-R01は鋳造製だしサイズも小さいので、フロント用15インチが3万6300円/1本、リア用16インチが3万8500円/1本とグッとお手頃になる(※MR-R01はブラックスパッタ仕上げのもの。価格はいずれも税込)。
ホイールをあえて変形させることで走りを向上する
だからといって「見た目だけレーシーなホイールでしょ」と侮ってはいけない。MR-R01は公道を走るスポーツカーであるS660に最適な剛性バランスを追求している。具体的には適度な「たわみ」を生む剛性になっているのだという。
手で触っても柔らかさなど感じないアルミホイールだが、実はコーナリング時などは若干たわんで(=変形して)いる。クルマが曲がろうとする時、遠心力によって車体は外側横方向に引っ張られる。するとまずタイヤがたわみ、続いてホイールもたわみ、サスペンションが動いて車体がロールする。
ホイールの変形は剛性が高いほど小さくなり、その方がコーナリング性能も良いといわれている。確かにサーキットのようにフラットな路面を走る分にはそうだろうが、一般道においては違った側面もあるのだという。モデューロを展開するホンダアクセス広報によると、
「タイヤがブレイクするくらいのGが掛かった際、高剛性だけを追求したホイールでは、その瞬間に弾かれるようにタイヤのグリップが失われます。しかし剛性を最適化することで、限界域でのタイヤのスライドがマイルドになるんです」。
考え方としては、ホイールをサスペンションの一部として扱うのだという。前述のように、路面からの入力は、タイヤ→ホイール→サスペンション→ボディの順だが、ただなすがままにホイールをたわませるのではなく、サスペンションのように任意にたわませるということか。
タイヤの性能を100%使い切ることができる
ホイールのたわみによってタイヤのブレイクを防ぐ、またはマイルドにする。それはタイヤの性能を使い切るということでもある。S660のモデューロXに標準設定されているタイヤは、ヨコハマの「ADVAN NEOVA AD08R」という、ストリート向けながら非常にグリップ性能の高いモデルだ。
そのタイヤがブレイクするような状況は限られるだろうし、滑った瞬間にトラクションコントールも効く。しかし、タイヤの限界性能ギリギリまで使い切れるというのは、特にS660ユーザーにとっては有用だろう。限界の高さは心の余裕にも繋がる。
サーキットと違い、一般道では橋の繋ぎ目やマンホールのフタもあるし、わだちやデコボコした路面も多い。ホンダアクセス広報によると、「ギャップを越えた際の突き上げ感なども、MR-R01は柔らかくなる。比べていただければ乗り心地の変化は体感していただけると思います」とのこと。
試行錯誤でリム剛性とディスク剛性のバランスを最適化
最適なたわみを生むため、MR-R01ではタイヤと密着する部分の「リム剛性」と、スポーク部分の「ディスク剛性」のバランスにこだわって作られている。開発にあたっては、様々な厚みのリムと、スポーク裏の肉抜き具合の異なるディスクを複数用意。両者を色々なパターンで組み合わせ、走行テストを繰り返すことで理想のバランスを追求した。
ある程度は理論上の計算で設計できるだろうが、実際に走ってみなければ本当の性能は分からない。これまでたわみを生かす設計のホイールは例がなかったこともあり、完成までには手間も時間も掛かったという。
「モデューロ開発アドバイザーの土屋圭市さんも、最初は『剛性バランスで本当に走りが変わるの?』と少し懐疑的でしたが(笑)、テストしてもらったら『こんなに違うんだね』と驚かれていました」。