長距離トラック同士のローカルルールが発祥
いまなら間違いなく煽り運転だろう。15年ほど前のことだ。高速道路を降りて一般道に合流した直後、うしろから小型トラックが進路をふさぐかたちでかぶせてきた。「マジかよ!!」驚いて急ブレーキを踏む。
「おらああぁ〜アブねーだろ〜がー!」とわめきながら降りてきたのはガテン系の若者ふたり。高速道路上でのこちらの車線変更が気にくわなかったと追走、イチャモンをつけてきたのだ。
落ち度はない確信があったし、話にならない相手だと思ったので「じゃあ警察呼ぶか?」と聞くと「ざけんな!バカヤロー!!」と吐き捨てて去って行った。
彼らの言い分はこうだ。「迷惑かけたんだからハザード出して詫びるのがスジだろう」と。そもそも迷惑はかけていないし、緊急時に使うハザードランプ(非常点滅表示灯)を謝罪の気持ちを示すために使えとは…妙なことがはやりだしていることを身をもって実感。うんざりした。
“サンキューハザード”や“ごめんねハザード”は、もともと長距離トラック同士の、主に高速道路での車線変更において使われるサイン。車体が長く、荷台がパネルで覆われるなどした大型トラックでは、互いに運転手の姿(動作)を目視するのは難しい。雨の日や夜間ならなおさらだ。そんな中でハザードランプによりサインは意思疎通を図るうえで有効な手段。いつしか一般車が真似をしだして全国的に拡散した。
ハザードサインは常識? 出さないとマナー違反?
この行為をすべて否定する気はないし、夜間や悪天候ではたしかに有効かもしれない。しかし、あたかも決められたルールのように「ハザードランプで意思を伝えなければいけない」「ハザードランプを出さないのはマナー違反」といった風潮が蔓延し、常識化しつつあるのはどうだろう。
日常的にクルマを運転している弊社の編集部、営業部のスタッフは、サンキューハザード、ごめんねハザードを実践しているのか? 聞いてみた。
「譲ってもらった時や、無理に割り込みをせざるを得なかった時など、必ずハザードで挨拶するようにしています」(編集・吉澤 38歳)
「普通にハザード出してるかな? まあ、周りがやってるから一応オレもやっとくか? って感じ。とくに深く考えてないっすね」(編集・大野田 49歳)
「状況や相手にもよります。例えば、気持ちよく道を譲ってくれたらハザードを出すし、なかなか譲ってくれなかった相手にはやりません。逆に譲った相手からハザードサインがなくても気になりませんけど…」(営業・高橋 40歳)
とくに抵抗を感じず、実践しているというスタッフが多い中、「やらない」と答えたのが営業部の斎藤(35歳)。「必要ないと思いますし、むしろ危険だと思います。以前、片側2車線の左側を走っている時に、右車線からタクシーがこちらに車線変更してきたので進路を譲ったんです。直後にそのタクシーがハザードを出したので、お礼のサインだと思い込んでいたら、突然目の前で停車。じつは歩道に立っていた客を乗せるためだったんです。あやうく追突するところでした。それからハザードサインは信じませんし、自分でも使いません」。 なるほど。一般道でのハザードサインは、見知らぬドライバー同士の意思疎通を円滑にしてくれる半面、それを100%鵜呑みにしていると、思わぬハプニングに遭遇する可能性も否定できないということか…