ホイールハウス内の空気を引き抜く働きがある
レーシングカーやチューニングカーのフロントバンパーの脇についている小さな空力デバイスは、フロントカナードというパーツだ。見た目がレーシーで、ドレスアップパーツとしても魅力があるけれど、空力的にはどんな理屈で、どんな効果があるのだろうか?
カナードはウイングとは原理と狙いが違う
レーシングカーにカナードを取り付ける理由は、想像通りダウンフォースを得るため。ダウンフォースというと、翼の上面と下面を通る空気の流速の違いを利用し、走行するクルマを地面に押しつける “ウイング”が真っ先に思い浮かび、このカナードも小型のウイングの一種と思うかもしれないが、じつは原理と狙いはまるで違う。
カナードは他の空力パーツと違って、空気を整流するものではなく、ボディサイドに強い渦=ボルテックスを作って、ホイールハウス内の空気を引き抜く働きがある。市販車や市販車ベースのレース車両、いわゆるツーリングカーの場合、タイヤにぶつかった空気はタイヤの前面で高い圧力になり、ホイールハウスの中で逃げ場がなくなり車体を持ち上げる力=リフトフォースとして作用する。同時にボディ下面の圧力も低減させるので、車体を不安定にさせてしまう……。
それを解消するために、カナードは、あえて強い渦を発生させて、ホイールハウス内の空気を引き抜くために開発されたエアロパーツだ。具体的にどのぐらい効果があるのだろうか。
デメリットが少ないカナードは装着する価値が大きい
レーシングカーの空力スペシャリストとして知られるムーンクラフトのデータによると、スーパーGTのLOTUS EVORA(GT300クラス)に、ムーンクラフトが開発したフロントカナードを取り付けると、フロントのダウンフォース(CLf)は8%も増加。その分、ドラッグ(空気抵抗)が増えそうだが、Cd値(空気抵抗係数)は0.3%しか増えなかったとのこと。
もちろんムーンクラフト製のカナードがスグレモノだというのはあるにせよ、効果は大きくデメリットが少ないカナードは、装着する価値が大きいことがわかるはずだ。
市販車にもアフターパーツで取り付けられるカナードがいくつか発売されているが、ドレスアップではなく機能パーツとして装着するなら、ワークス系のブランドか、モータースポーツで実績のあるエアロメーカーの車種専用で、取り付け位置も細かく指定されているものから選びたい。
また形状や材質によっては、保安基準をクリアできない製品もあるので、保安基準に適合しているかどうかを確認してから装着しよう。