RVからSUVへと移行した四駆ブームの歴史
RV=レクリエイショナル・ヴィークルという言葉が流行ったのは、1980年代だ。81年に、いまは商用車しか生産していないいすゞから、ビッグホーンという四輪駆動車が発売され、翌年に三菱自からパジェロが売り出された。
そして現在はRVから発展したSUVが日本を含めた各国で人気となっている。このRVとSUVの差はどういったところにあるのか。RVやSUVが誕生した歴史を振り返ってみたい。
RVブームのきっかけを作ったクルマたち
四輪駆動車として従来から、トヨタ・ランドクルーザー、日産サファリ、三菱ジープなどが戦後から存在したが、RVと区分けされる四輪駆動車が誕生するのは、ビッグホーンやパジェロからとなる。
ビッグホーンやパジェロは、ピックアップトラックを基に生まれた四輪駆動の乗用車で、今日のSUV(スポーツ多目的車)ほど快適性を高めたクルマではない。それでも、ランドクルーザーやサファリ、あるいはジープのように、悪路走破を第一に性能を求めた機能重視の四輪駆動車に比べれば、乗用としての使い勝手に目を配った車種であった。
ピックアップトラックが基になった人気モデルたち
RVとしてはほかにも、1983年にトヨタのハイラックス・サーフ、86年の日産テラノがある。これらはピックアップトラックのハイラックスやダットサントラックを基に、荷室部分に樹脂製の屋根を設けたのが原点であり、米国で後付けのシェルと呼ぶ荷室の覆いを取り付けることが流行ったことがきっかけになっている。
米国では現在も日常の足としてピックアップトラックの人気があり、例えばスバルはレオーネの時代に、ピックアップトラックを持っていないことから乗用車を改造してトラック風に見せたブラットと呼ぶ米国専用車を1970年代後半から1980年代にかけて生産したほどだ。
ピックアップトラックは乗用車より価格が安いことから、米国では高校生になって運転免許証を取得し、最初に買うクルマとしても人気を保つ。日本でいえば、軽自動車のように身近な車種といえるだろう。また軽商用車のように、仕事に使うクルマとしてもピックアップトラックの需要は堅調だ。米国ではピックアップトラックのレースが行われるほどである。
そのピックアップに、荷台のままではもの足りない人たちが、アフターマーケット製品としてシェルを取り付けたのが、ハイラックス・サーフやテラノ誕生のきっかけとなった。テラノはもちろん、ハイラックス・ サーフものちには、シェル風の造形とはいえ鉄板の車体を持つ仕立てに進化している。
「ツーリングワゴン」という新ジャンル
ほかにもスバルが舗装路でも四輪駆動車を利用することを提案し、「ツーリングワゴン」という概念を打ち出した。これも当時でいえばRVに含まれる。
要はジープのような実用第一の四輪駆動車に比べ乗用車的要素が強められていたり、ピックアップトラックにシェルを取り付けたり、ステーションワゴンに四輪駆動性能を与えたりというように、舗装路から未舗装路まで行動範囲を広げながら、それでいて単に目的地へ移動するためだけでなく、行った先で余暇を楽しめる車種を、RV=レクリエーションのためのヴィークルと呼んだのだ。
したがってビッグホーンもパジェロも、ハイラックスサーフもテラノも、そしてツーリングワゴンはレオーネからレガシィの時代となっても、RVの代表格として人気を得た。またツーリングワゴンは、そののちにアウトバックやインプレッサXVへと発展していく。それらはそれぞれの車種のなかでいずれも高い人気を得た。消費者の趣味趣向に応じたクルマたちであり、優劣はつけがたい。
ハリウッドからきたSUVの波
その後に登場するのが、SUV(スポーツ多目的車)だ。SUVはRVと異なり、トヨタ・ハリアーのように乗用車が基となり、その車高を上げることでRV風、あるいはジープ風としたクルマだ。すなわち余暇を楽しむために出かけるというより、上級4ドアセダンでは差別化がしにくく、背の高い乗用車があれば目立つだろうという消費者志向がきっかけになる。
ハリアーがきっかけを作ったといえるが、その基となるのは米国カリフォルニア州のハリウッド周辺で、富裕層がレンジローバーで街を走るようになったことだとされる。レンジローバーは、ランドローバーの高級仕様であり、アルミ製の車体やフルタイム式四輪駆動を備える点がランドローバーとの差別化となり、車両価格も高かった。
そもそも英国では、ロールスロイスに乗るような富裕層が広大な敷地内を巡るために乗る四輪駆動車を所有していた。それがレンジローバーであった。したがって、そもそも富裕層のための高級四輪駆動車との位置付けだ。それをハリウッド界隈の人たちが街で乗り出したのが目新しかったのである。
普通の4ドアセダンでもなく、クーペやスポーツカーでもない新しい見栄えのクルマとしてRV時代のような荷物を運んだり大勢で出かけたりといった実用性以上に、見栄えにこだわったクルマがSUVだ。
もちろん、四輪駆動車であれば未舗装路の走破性も高い車種が多く、RVとの境界があいまいな車種もあるが、一方で前輪駆動のSUVも存在するところに、見栄え中心という位置付けが強まる。あるいはSUVでサーキットを走れるような車種も登場し、そこはRVと明らかに異なる。
「ミニバン」がファミリーカーの定番に
日本ではRVの次にミニバン人気がやってきた。これも家族みんなで出かけられるよう、多人数乗車という実用性が重視される。もちろん人気が沸騰した時代は一人でミニバンに乗る姿もあったが、本来は実用性が第一だ。そのうえでオデッセイがアコードを基に作られたように、乗用車として日常から高速移動まで快適に使える点が、かつてのワンボックス車と異なる。
RVとミニバンは実用性を基本に余暇を楽しんだり、家族の絆を深めたりという、移動以外の目的があった。そこが今日のSUVとはやや異なる本質的意味を持っていた。