安心して両親に勧められる「バランス型」3台を選定
安全や安心という視点で、いま注目している新車はこの3台。高齢者が運転することを前提に、比較的小さめな車種でもある。というのも、日本の道路や駐車場の事情は、昭和40年代に発展した国内のモータリゼーションの当時と変わらないところが多いためだ。それは、道幅や、駐車場枠の大きさである。
国内の路地も道幅を4m以上にすることはすでに定められているが、現実的には旧家が残る住宅街などでは3.6mほどの道幅のまま変わらないところがまだある。単にすれ違いや、曲がり角の窮屈さだけでなく、車庫の前の道幅が狭ければそこに駐車するにも切り返しを何度も行わなければならない。
さらには、新築の戸建て住宅でも、ことに都市部は土地の価格や地代が高いので、敷地ぎりぎりに家屋を建てる例が多く、そこに設けられた車庫も、部屋数や部屋の広さが優先されるので、3ナンバー車が多くなった今日においても5ナンバー車に適当な広さしか確保されていない例が多い。そこへ3ナンバー車を止めたら、クルマから降りにくくなったり、玄関への出入りも窮屈になったりする。
1)ホンダ・N-WGN
経済的にも車両寸法的にも、軽自動車で一番のお薦めは、ホンダN-WGNだ。
N-WGNもハイトワゴンであり、スーパーハイトワゴンよりは背が低いが、室内は十分な広さがある。
そのうえで、何より肝心なのは、軽自動車で唯一、ハンドル位置の前後調節ができるテレスコピックを備えることだ。この調節機構があることにより、より正しい運転姿勢をとることができる。
また、ホンダの運転支援機能である「ホンダ・センシング」がクルマが新しくなるほど進化しており、N-WGNの性能は高い水準にある。
基本となる運転姿勢が正しく取れること、そのうえで、クルマが運転を助けてくれる支援機構が進化し、高度化していることを含めると、軽自動車ではホンダN-WGN以外に薦められる車種はないのである。
2)ホンダ・フィット
新型フィットの最大の利点は、前方の視界に優れ、よく見えることである。これまで衝突安全性能を高めるため、フロントウィンドウを支える支柱(ピラー)が太くなり、前方視界を妨げてきた。各自動車メーカーとも、形状の工夫などで改善は試みてきたが、十分ではない。
その点、新型フィットはフロントウィンドウを支える支柱と、前面衝突安全に対して客室を守る支柱との機能を分け、運転者の前方視界を確保するためのフロントピラーを細くした。そして前面衝突安全のための客室保護は、フロントピラーの後ろの支柱で確保する構造を採ったのである。
またダッシュボードを低く、そして左右へ平らな造形とすることでも視界が開け、なおかつ車幅感覚もつかみやすくしている。5ナンバーのコンパクトカーであっても、フロントピラーやダッシュボードの造形などにより、視界が悪かったり車幅感覚がつかみ難かったりするクルマがあるが、新型フィットは、そうした不安や懸念を技術や新発想の造形で見事に解消しているのである。
そのうえでN-WGNでも紹介した「ホンダ・センシング」という運転支援機能は、N-WGNより新しく生まれたクルマだけに、さらに進化している。より上級のアコードと比べても優れているのではないかという仕上がりだ。
室内も、グレードによる上下ではなく、用途に応じた感触の違いという新しい空間づくりになっている。クルマ歴の終着点として、いまの生活感に近い雰囲気を持つ内装で車種選びをする面白さもあるのではないか。
3)日産・キックス
最後は、3ナンバー車となるが、いま人気のSUV(スポーツ多目的車)のなかから、日産キックスを選んだ。
キックスは、3ナンバーといっても全長が約4.3mで、それほど大柄なわけではない。全幅が1.7mを6cm超えて5ナンバーではなくなっている。実車を見ると、それほど大柄なクルマとは感じず、威圧感もない。訴求色はオレンジ色だが、白のモノトーンも清楚な印象で好感が持てた。
特徴は、日産のハイブリッドシステムであるe-Powerを採用することだ。これによって、ワンペダル操作(e-Powerドライブ)が可能になる。もちろん、ワンペダルでない普通の運転もできるが、万一の事故を避けるうえでもワンペダルを愛用することを薦めたい。しかも、このワンペダル操作は、EV以外では、日産のe-Powerでしか経験できない。
ワンペダル操作がなぜよいかというと、これを使うことにより、アクセルからブレーキへのペダル踏み替えを7割ほど減らすことができると日産はいっている。使い慣れた人なら、9割近く減らせられるという声もある。
高齢者の交通事故で注目を集めているペダル踏み間違い事故は、関節の動きや筋力の低下から、普段は普通にできていたペダル操作が、緊急時には間に合わないことによって生じる。それでも、アッと思った瞬間、一旦アクセルペダルから足は離しているのは間違いない。
このとき、ワンペダル操作であれば、アクセルペダルから足を離した瞬間に回生が強く働き、減速がはじまる。それによって、やむをえず衝突するとしても、初期速度を落とすことができ、傷害を軽減できる可能性を高める。
エンジン車でば、ペダルを踏み替えないと十分な減速は期待できず、また踏み替えるまでの1秒ほどは、何のペダル操作もない空走時間となってしまい、たとえば時速30kmからでも1秒間に8.3m前へ進んでしまうのである。ここで回生が働き、減速できるかどうかによる被害の差は大きいだろう
日産のワンペダル操作はEVのリーフはもちろん、e-Powerを採用したノートで採り入れられ、セレナでも採用されてきた。だがキックスの操作具合がもっとも自然になっている。多くの人が扱いやすい操作性へ進歩しているのだ。全体的な静粛性や乗り心地も改善され、充電のいらない電気自動車といった乗り味でもある。
最後の選択肢としてEVも薦めたいが、より身近な車種として、キックスはお薦めなのである。