全開の前に必ず行いたい「人とクルマの準備運動」
サーキット走行を安全に楽しむための鉄則と言われているのが、最初の2〜3周は全開せずにゆっくり流す「慣熟走行」だ。じつはアマチュアだけでなく、プロドライバーでも当たり前に実践していることだけど、果たしてどんな意味や目的があるのだろうか? 慣熟走行をする意味とその効果的な方法について見てみよう。
クルマも人間も少しずつ慣らしていこう
どんなスポーツにも準備運動は必要だ。それはクルマを使う“モータースポーツ”も同様で、要は道具(クルマ)と身体(ドライバー)を慣らすこと。さらにコースのコンディション確認が主な目的だ。まずは慣熟走行でやるべき、クルマの慣らしについて説明しよう。
知ってのとおり走行を始めた直後は油脂類が冷えており、その状態で全開すると本来の潤滑性能を発揮できず、エンジンなどにダメージを負う危険性がある。なので慣熟走行の間は極端に回転数を上げず、オイルやクーラントが適温になるのを待つ。同じくタイヤも暖まっていない状態では滑りやすく危険だし、ブレーキも適正温度域じゃないと純正より効かないことがあり、慣熟走行をせずに全開するとスピンや事故に繋がるので注意。
レースで「フォーメーションラップ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。いったんグリッドに並んだ後にすべての車両がコースを1周し、マシンを左右に振ったり直線でブレーキをかけたりする周回のことを指す。より短時間ではあるがコレも慣熟走行だ。
また車両に不具合がないかを確認するのも、慣熟走行の忘れてはいけない目的といえる。何かしらパーツを交換したときやセッティングを変更したときは特に重要で、思いがけない動きをしたりトラブルが起きても、当然ながら低速なら対処できる確率も上がるだろう。
そして慣熟走行はドライバーの緊張を解き、正確でスムーズな操作をするためにも有効だ。特に初心者はサーキットという非日常感から、身体が硬くなったり周囲を見渡す余裕がなくなったりするので、心身ともに適度にリラックスさせる意味でも大いに役立つだろう。
コースのコンディションチェックも大事
もうひとつの重要な目的は、コースのコンディション確認だ。初めて走るサーキットであればピットロード入口やポストの位置、縁石の高さやカント(アウト側とイン側での高低差)や路面の継ぎ目などをチェック。いずれも操作に神経の大部分を集中する全開走行では気付きにくいので、慣熟走行の間に情報を得ておくのがセオリーといえる。
通い慣れたコースでも前日の走行でオイル漏れがあったり、コーナーにタイヤのラバーが残っていたり、路面状況がまったく同じとは限らない。特にウエットのときは雨の強弱でグリップが大きく変化し、コース上に出現する“川”の場所や深さも変わるため、ドライのときより時間をかけて行うドライバーも多い。
なお慣熟走行はは2〜3周が目安と言われているけど、雨や気温の低い季節はタイヤやブレーキが通常よりも温まりにくい。不十分と感じたら「時間がもったいない」と焦らず、急がば回れの気持ちで4周でも5周でもウォーミングアップを重ねるべし。中途ハンパな慣熟走行が原因でクラッシュ、なんてのは後悔してもし切れない!