無敵の速さを追求し続けた「ランエボ」最終章
1992年から2016年までの24年間、三菱自動車から販売され、WRC(世界ラリー選手権)などのモータースポーツでも活躍した「ランサー・エボリューション」シリーズ、通称ランエボ。三菱のブランドから連想される「ラリー」と「4WD」のイメージ、そして技術的ノウハウの形成に大きく貢献したのは、このランサー・エボリューションであることは間違いない。
そんなランエボの歴史を世代ごとに振り返ってきたが、今回は最後となる第4世代「CZ4A」型ランサー・エボリューション10について振り返ってみたい。
【ランサー・エボリューション10】CZ9A/2007年10月(6速DCTは11月)
ベース車のランサーが2007年8月にフルモデルチェンジし8代目「ランサー」、日本名「ギャラン・フォルティス」となったことで、ランエボもこの10から第4世代へ移行した。
この第4世代における最大のトピックはエンジンだろう。6代目ギャランVR-4より継承しランエボ9 MRまで搭載し続けてきた「4G63型」2.0L直列4気筒ターボエンジンが、ついに世代交代。同じ2.0L直4ターボながら最新の「4B11型」に一新された。
シリンダーヘッドおよびブロックを鋳鉄製からアルミダイキャスト製(鋳鉄製スリーブ入り)に変更することで12.5kg軽量化。また後方排気レイアウトを採用して、搭載位置の10mmダウンを可能にしている。
ボア×ストロークは85.0×88.0mmのロングストローク型から86.0×86.0mmのスクエアストロークとなる一方、MIVEC(連続可変バルブタイミング)機構は吸排気の両方に採用。カム駆動はタイミングベルト式からサイレントチェーンに、バルブ駆動はロッカーアーム式から直打式に変更されるとともにバランサーシャフトが省略された。
これらによって、最高出力280ps/6500rpmを維持しながら、最大トルクを従来より22Nm高い422Nm/3500rpmにアップ。同時に平成17年基準排出ガス50%低減レベルをクリアし、車重が100kg以上増加しているにも関わらず10・15モード燃費は従来と同等レベルの9.9〜10.2km/Lを維持している。
トランスミッションは従来の6速MT、5速MT、5速ATに代わり、422Nmのトルクに耐えうる6速DCT「ツインクラッチSST(Sport Shift Transmission)」および5速MTを新開発。
ツインクラッチSSTには「ノーマル」「スポーツ」「スーパースポーツ」の3モードが用意されており、前者ほど燃費重視かつショックを抑えた変速を行ない、後者ほど高回転域を維持しつつ短い時間で変速するようプログラムされていた。
5速MTはトルク容量を増大させるためギヤの歯幅を拡大。従来の1〜3速に加え4速、5速のシンクロもマルチシンクロ化し、さらにボールキータイプのシンクロキーも採用することで、耐久性を向上させている。
ランエボの代名詞とも言える電子制御4WDは、従来のACD+AYC+ABSに加え、新たにASC(Active Stability Control)も統合制御する「S-AWC(Super All Wheel Control)」に進化。引き続き「ターマック」「グラベル」「スノー」の3モードを備えながら、日常域から限界走行、緊急回避時まで幅広い領域でより自然かつ緻密に制御することで、安定性と旋回性能のさらなる向上を図っている。
ボディサイズはランエボ9 MRに対し全長×全幅×全高が5mm×40mm×40mmアップし4495×1810×1480mm、ホイールベースは25mm延長され2625mmに。前後トレッドは30mm拡大され1545mmとなった。だがベース車の時点で剛性が高められているボディに対し、ランエボ10にはさらに補強部材を追加。ドア開口部のスポット打点も約50箇所増し打ちすることで、ねじれ剛性をランエボ9 MRに対し39%、曲げ剛性を同64%高めている。
サスペンションはフロントが倒立式のストラット式、リヤがマルチリンク式という形式こそ変わらないものの、プラットフォームの刷新に伴い設計が見直されたことで、前後とも剛性・耐久性が大幅にアップ。タイヤサイズはGSRがは245/40R18、RSは205/60R16に拡大された。なお、ランエボ9 MRに採用されたビルシュタイン製ダンパー&アイバッハ製スプリングは、「ハイパフォーマンスパッケージ」の一部としてメーカーオプション設定されるようになった。
ブレンボ製ブレーキシステムも一新され、ローター径はフロントが320mmから350mm、リヤが300mmから330mmに拡大。さらに、1枚あたり1.3kg軽量な2ピース構造のローターが「ハイパフォーマンスパッケージ」に設定された。
大幅に進化したのは走りだけではない。エクステリアは三菱製スポーツセダン伝統の逆スラントノーズを採用し、4B11型ターボエンジンの冷却に充分な開口部を確保しながら、ムダのないソリッドな造形を実現。室内も従来以上に機能的ながらモダンかつ上質な仕立てとなり、レカロ製セミバケットシートも一新された。なお、標準ではスェード調ニット、オプションでは本革&グランリュクスの表皮が与えられるが、後者を選択するとボディに遮音材が追加され、静粛性が高められた仕様となるのも大きな特徴だ。
このようにランエボ10は、歴代ランエボとモータースポーツの実戦を通じて培った走りの技術を初めて一新したことで、運動性能を一段とレベルアップさせつつも、日常域でも扱いやすく快適で所有する歓びが得られる超高性能スポーツセダンへと、大きく舵を切っていった。
そして、このランエボ10は歴代ランエボで初めて正式なカタログモデルに設定されるとともに、以後の一部改良やマイナーチェンジで車名が変更されないようになった。