ドライビングの楽しさを味わえるスポーツカーとして誕生
1990年代の初頭、国産車はいっときではあるが、確かに世界一といえるクルマを作っていた。ポルシェ911ターボより速いスカイラインGT-R(R32)、ライトウエイトスポーツカーの神髄を極めたユーノス・ロードスター、高級車としての快適性を高次元にまとめ上げたトヨタ・セルシオ。そして、ハンドリングで頂点に立ったホンダNSX(NA1、NA2)……。
NSXで特筆できる点はいくつもあるが、はじめは2リッター4気筒のミッドシップスポーツというコンセプトで始まったが、途中で計画が二転三転。レジェンド用のV型6気筒3リッター、SOHCを横置きに搭載したミドルクラスのスポーツカーとしてプロトタイプが発表される。
しかし、当時のF1を席巻していたホンダのフラッグシップとしては物足りないと指摘され、最終的にはVTECのV型6気筒DOHCエンジンから280馬力を発生するスーパースポーツに路線変更。発売まで1年を切った土壇場のタイミングでボディサイズを変更する(ホイールベースを30mm延長)という大技を駆使したにもかかわらず、最終的に世界一といえるレベルのスポーツカーに仕上げたホンダの底力には驚くしかない。
こうした性能を支えたコアテクノロジーは、なんといっても世界初めての量産オールアルミモノコックボディだ。
ニュルブルクリンクで徹底的な走り込みを行った
当時、ボンネットやフェンダーにアルミを使うメーカーはあったが、モノコックそのものに採用する発想は皆無だった。というのもアルミニウムはコストがかかるのと、当時は分厚いアルミのモノコックを溶接できるスポットガン(溶接機)がなかったからだ(1番厚い部分では、強度を増すために3枚の板を重ね板厚が“8mm”だった)。
ライトウエイトスポーツのような軽快感と、スーパースポーツのパフォーマンスを両立させる鍵は、軽量化しかないと確信していたNSX開発陣は、栃木工場の中にNSX専用工場=高根沢工場を設け、スポットガンまで独自に開発を行った。
また神戸製鋼所とパートナーを組み、部位に応じて5種類のアルミ合金を使い分けた。骨格部には新技術の押し出し材を採用し高剛性ボディを実現している。鋼板ボディに比べボディ単体で140kg、サスペンションやシャシー部などで60kg、トータル200kgの軽量化を達成した。
NSXのパワーウェイトレシオは5kg/psが目標だったため、200kgの軽量化はエンジン出力でいえば40馬力のパワーアップに相当する効果があった。こうして国産スポーツカー史上もっとも軽く、剛性のあるボディを手に入れたNSXは、ニュルブルクリンクで徹底的な走り込みを行い、ハンドリングのチューニングを行った。