日産のそれとはベクトルの異なる「突出した存在感」で攻めたトヨタ
以前も紹介した通り、パイクカーといえばBe-1を始めとする日産一連のモデルがよく知られているが、トヨタも一時期パイクカー路線に力を注いだことをご存じだろうか? 日産のパイクカー路線は、レトロタッチ志向と言ってもよかったが、対するトヨタのパイクカー路線は、近未来型の車両コンセプトを市場に提案するところに特徴があった。
正確に表現すれば、トヨタのパイクカーは、新たなライフスタイルや価値観を持つ若者層を対象とした「WiLL」プロジェクトの一環として作られた自動車で、このWiLLプロジェクトというのは、自動車に限らず生活関連用品全体に網掛けをした、新たな価値観やライフスタイルを持つ当時の若者世代を対象にした商品企画だった。
ちなみにこのプロジェクトに参画した企業は、自動車メーカーがトヨタ、総合家電メーカーとして松下電器(現バナソニック)、化学メーカーの花王、アサヒビール、近畿日本ツーリストの5社(さらにコクヨ、江崎グリコも参画したが、2002年に花王とアサヒビールが脱退)で、1999年に立ち上げられた異業種企業による市場開拓を視野に入れた試験的な企画だった。
トヨタに関して言えば、この企画に投入された車両すべてがWiLLブランドとなり、車名にWiLLが冠せられ、仕様(コンセプト?)に応じて「Vi」(第1弾、2000年)「VS」(第2弾、2001年)「CYPHA(サイファ)」(第3弾、2002年)の3モデルがリリースされる経緯をたどっていた。
日産はノスタルジックなデザインを採用し、ユーザーの郷愁を誘う商品企画であったことに対し、新世代の若者を想定ユーザー層としたWiLLは、ライフスタイルを提案する近未来のデザインを意識したところに大きな違いがあった。
第一弾 童話から出てきたようなメルヘン系「Vi」
さて、WiLLの先陣を切って登場した「Vi」は、ヴィッツのプラットフォームをベースに「かぼちゃの馬車」をイメージしたメルヘンちっくなコンセプトで登場。
エンジンは1298ccの2NZ-FE型で88ps仕様。ミッションは4ATのみで車体は4ドアセダンボディ。キャンバストップ仕様も用意され20〜30歳代の女性を対象とする商品企画だったが、デザイン(カボチャの馬車?)を重視したことで車両周囲の見切りが悪く運転に支障がおよんだという弊害を生んでいた。
第二弾 スパルタンなフォルムで攻めた「VS」
1年後に登場した第2弾の「VS」は、「Vi」とはコンセプトを一転する力強くダイナミックのモデルとしての登場だった。
デザインコンセプトはズバリ「ステルス戦闘機」。精悍な印象を与えるフォルムで、搭載エンジンは1500〜1800ccだったが、このクラスの2BOXカーとしては珍しくボディ全幅を1720mmで規格。
基本はFFだったが4WDモデルも設定され、パワーモデルにはスポーツエンジン系の2ZZ-GEが搭載され、190psのこのエンジンには6速MTが組み合わせられた。
第三弾 当時のハイテク機能が搭載された「サイファ」
WiLLシリーズの第3弾、最終型となる「CYPHA」は再びヴィッツベースのモデルで登場。
車名はCyber(サイバー)とPhaeton(馬車)の合成造語。車両コンセプトは「ディスプレイ一体型ヘルメット」。2BOX5ドアハッチバックのボディを持ち、車名の語源が意味するように、トヨタ車初の車両情報通信サービス「G-BOOK」を搭載するIT志向の車両として企画され、1298ccの2NZ-FE型87psエンジンを積むFFモデルと1496ccの1NZ-FE型105psエンジンを積む4WDモデルがリリースされた。
WiLLシリーズの車両は、いずれもハードウエアの仕上がりはトヨタ車らしく十分な内容だったが、コンセプトの具体性に欠け、市場に対する訴求力がいまひとつだった。商品性が分かりにくく、在来車種の一角に食い込むような販売実績を残すことはなかった。