愛車の顔を他車種に変える「移植」カスタマイズ
かつて大流行したクルマのカスタマイズに「顔面スワップ」がある。1980年代~1990年代にかけて流行したこの手法は、文字通り、クルマのフロントフェイスを他車のものに変えるというものだ。別名「顔面移植」や「フェイススワップ」などとも呼ばれた。
大技のため工法が難しく、コストもかかるためか、近年は当時ほど見かけなくなった顔面スワップ車だが、まだまだ現役だったり、つい最近作られたクルマもある。ここでは、そういった車両の中でも、特にインパクトが大きく、あり得ないほど正体不明だったクルマを厳選してお届けしよう。
かつては幅広い車種でカスタマイズされた
クルマを紹介する前に、まず顔面スワップがどんなものか簡単に紹介しよう。
ヘッドライトやフロントバンパー、グリルなどを高級車や新型モデルの部品に交換する方法が一般的で、日産・180SXの顔をシルビアにした「シルエイティ」などが有名だ。その人気たるや、のちの時代に京商からモデルも出ているほどだった。
また、流行当時はスポーツカーやセダン、ミニバンや軽自動車など、幅広いジャンルで顔面移植をしたクルマが登場。自分の愛車にさらなるオリジナリティや個性、高級感などを求めたカスタマイズ好きのオーナーたちが、こぞって顔を変えていたのだ。
大量生産車ではありえない顔面スワップ車のフェイスは、カスタマイズカーに詳しくない人たちが、異口同音に「これ何のクルマ? 」と不思議がるほど正体不明で、街中などで大きな注目を浴びていた。
さらに、当時はパーツメーカーなどから、他車種風のフェイスを演出するオリジナルのキットなども販売されたほど、一世を風靡したのだ。
セルシオにトヨタ最高峰“センチュリー”顔を移植
本題に戻ろう。まずは、この1台から。前から見ると、まるで2019年にモデルチェンジした現行のセンチュリー。
でも、実は2代目20型のセルシオがベースとなっているというクルマだ。
2020年2月に開催されたカーイベント「大阪オートメッセ2020」に展示された車両で、いまだ現役の顔面スワップ車。通称「セルチュリー」と呼ばれている有名車両だ。
かつて販売されていた高級セダンのセルシオに「社長やセレブが乗る」トヨタ最高峰車センチュリーの顔を合体させたこの車両は「水野ボディーワークス」が製作したもの。約20年前からセンチュリーのモデルチェンジに合わせ新型の顔に変えているという、長い「顔面移植」歴を持つクルマだ。
今回で3回目という仕様変更では、フロントのグリルやバンパー、ヘッドライト、ボンネット、フェンダーなどに現行センチュリーの純正パーツを投入。また、カスタマイズパーツメーカー「K-BREAK」とのコラボレーションによるエアロキットなども装着することで、より高いオリジナリティなどを加味している。
加えて、顔を変えただけでは全体のフォルムに違和感が出るため、フロントバンパー下部のメッキパーツに合わせ、サイドステップやリアバンパーなどのモール部分もセンチュリー純正パーツに交換。
これらを全てワンオフで製作しているというのだから、かなりの手間とコストがかかっているといえる。だが、その分、このクルマにしかない個性や高級感はかなりのものだった。
アルファードが世界の高級車“ロールスロイス”顔に
世界のセレブやVIPが愛用する高級車ロールスロイス風の顔を持つ「VeilSide4509 DOMINATOR」、オリジナルはトヨタ高級ミニバンのアルファード(10型)だ。
まるでロールスロイスのファントムやゴーストのような巨大なフロントグリルが、かなりの存在感を放つこのクルマ、実は全てオリジナルのエアロキットを装着している。だから「ルールスロイス風」なのだ。
製作したのは、カスタムパーツやチューニングカーなどを手掛ける「Veilside(ヴェイルサイド)」。映画「ワイルドスピード3 TOKYO DRIFT」に登場した、シャープなエアロパーツなどが印象的だったマツダ・RX-7(FD3S型)の製作などでも知られるメーカーだ。
「VeilSide4509 DOMINATOR」というモデル名で、2014年の「東京オートサロン」に出展されたこのクルマ。フロントのバンパーやグリル、ヘッドライト、ボンネット、フェンダーなどには、VeilSide4509 ALPHARDという名称のエアロキットを装着していた。また、サイドスカートやリヤバンパーなども、フロントのデザイン変更に合わせた同シリーズのキットを装備することで、全体的な統一感を演出している。
強烈な「オラオラ」風味と高級感が融合した面構えのこのモデルは、当時は日本だけでなく、海外メディアなどでも紹介されるほど、大きな注目を浴びた。ワイルドスピードのRX-7同様、日本のカスタマイズ文化を世界に知らしめたVeilSideの意欲作だったのだ。
軽バンのエブリィがアメリカのスクールバスに!
スズキの軽商用車エブリィを、1980年代のハリウッド映画などに出てくるレトロなスクールバス風にしたのがこのクルマ。軽自動車のカスタムパーツを手掛ける「Blow(ブロー)」が販売する「クールライダーDA17」というコンバージョンキットを装着したカスタマイズモデルだ。
コンバージョンキットとは、外装などを全く別のデザインのパーツに変えるためのもの。このクルマでは、まずフロントまわりに本物のバスのように前方へチルトする一体型フロントカウルを装着。これに、専用のフロントグリル(メッキ処理はオプション)やライトベゼル、大型バンパーなども装備し、エブリィのフロントフェイスを大幅に変更。かわいくて、ちょっと懐かしい独特の雰囲気を醸し出している。
また、リアまわりもバンパーやテールライト等の灯火類、ゲートパネルなどにオリジナルパーツを装備し、どこから見ても“昔映画で見たアメリカのスクールバス”的フォルムを実現。加えて、車高を5.5インチ(約13.97センチ)上げることで、威風堂々とした佇まいとなり、小柄な軽自動車にない存在感も演出している。
なお、このキットは現在も販売中で、エブリィ(DA17型)だけでなく、マツダ・スクラム(DG17型)や日産・NV100クリッパー(DR17型)にも装着が可能だ。
顔はトヨタ86、ゆったり乗れる快適性はカムリ
2ドアクーペのトヨタ・86に、4ドアセダン版が登場? 一瞬そんな勘違いをしそうなほどの仕上がりを見せているのは、「NATS(日本自動車大学校)」の学生たちが作ったトヨタ・カムリだ。
ご存じの通り、カムリは広い室内でロングドライブも快適な5人乗りの中型セダン。
一方の86はスポーティなフェイスと軽快な走りが自慢だが、コンパクトなボディにより乗車委員は4人。この2台のいいとこ取りをしたのがこのクルマなのだ。
2020年1月開催のカーイベント「東京オートサロン2020」に、『LS86』というネーミングで出展されたこの車両。ご覧の通り、フロントのバンパーやグリルなど、フロントまわりは全て86用パーツに交換されている。また、リヤまわりも、バンパーなどは同じく86用だ。ちなみに、ヘッドライトやテールランプ、サイドマーカーなどは、パーツブランド「ヴェレンティ」の製品を装着し、高級感も演出している。
前述の通り、ベース車はカムリなので、室内はかなり余裕の空間だ。さらに、ルーフ中央にフリップダウン式モニターなども装備することで、エンターテイメント性も向上。エンジンは、カムリに元々搭載されている2.5リッターのハイブリッド仕様なので、燃費も良好。普段使いも楽しく快適な「86風セダン」となっている。
なかなか個性的な顔面スワップ車の数々、いかがだっただろうか。どんなカスタマイズ手法であれ、車種が一瞬分からない正体不明さやインパクトなどは、カスタマイズカーが本来持つ醍醐味のひとつ。顔面スワップは、それを分かりやすく、ダイレクトに演出できるのが大きな魅力だ。