「重戦車」と呼ばれたスーパー4WDスポーツカー
1990年から2001年まで三菱から販売されていた「GTO」。時代は国産スポーツカー全盛期、ハイテク装備を満載して登場したGTOだったが、クルマ好きの間で「重戦車」とも呼ばれていたことをご存知だろうか? 3リッターのツインターボに4WDと4WSを搭載、車幅は1800mm超えと、いかにも車重がありそうなことは想像に難くないが、誕生の経緯や実際のドライブフィールはどうだったのか。改めて振り返ってみたい。
車重1700kgのGTOに対しライバルたちは?
まず1990年10月デビュー当初の車重を見てみると、225ps/6000rpm&28.0kgm/4500rpmを発する3.0L V6 NAエンジンと5速MT、ビスカス式センターデフを持つフルタイム4WD、後輪操舵機構の4WSを組み合わせた、もっとも軽量な「GTO」(標準仕様)で1640kg。
同じく4速AT車は1680kg、そして280ps/6000rpm&42.5kgm/2500rpmを発する新開発の3.0L V6ツインターボエンジンにゲトラグ製5速MTを組み合わせ、4WDの前後トルク配分を45:55とした「GTOツインターボ」は1700kgに達していた。
では、6気筒ターボエンジンに5速MT、4WDに4WSを組み合わせる2+2シーターの2ドアクーペという点で最も成り立ちが近い、R32型日産スカイラインGT-Rのデビュー当初の車重はどうか。なんと1430kg。270kgも軽量に仕上がっている。
なお、1990年代前半に国産車最速クラスとして扱われていた、他の2ドアクーペのMT車と比較しても、オールアルミモノコックボディのV6ミッドシップスーパースポーツ・ホンダNSXは1350kg、NSX-Rは1230kg。ロータリーターボエンジンを搭載するFRのアンフィニRX-7は1260kg。3.0L直6を搭載するA80型トヨタ・スープラのターボ&6MT車は1490kgだった。
ちなみに、WRCのホモロゲーションモデルとして投入された4ドアセダン、スバル・インプレッサWRX STiバージョン(Ver.1)は1220kg。GTOと同じ三菱のランサーエボリューション(1)はGSRで1240kg、RSで1170kgとなっていた。
いずれの車種と比較してもGTOは200kg以上重く、その“重戦車”ぶりが際立っている。
「ディアマンテ」ベースの迫力ボディ
ではなぜGTOは、こうも“重戦車”に仕上がってしまったのか。まず単純に、ボディサイズが大きい。GTOの全長×全幅×全高は4555×1840×1285mm、ホイールベースは2470mmで、R32GT-Rの全長×全幅×全高=4545×1755×1340mm、ホイールベース2615mmと比較しても全幅が際立って広い。
また、スポーツカー向けのプラットフォームを専用開発せず、FF高級セダンのディアマンテをベースとしたことも大きいだろう。しかも、「GTO」=「グラン・ツーリスモ・オモロガート」(伊)の略で、「モータースポーツにおけるGTカテゴリーとして公認された車という意味」(プレスリリース原文ママ)という車名に反し、モータースポーツ参戦を大前提としたホモロゲーションモデルではなく、軽量化は開発時の至上命題とはならなかった。そのため、アルミニウム合金など軽量素材の多用、快適装備の簡略化、部品ひとつひとつのグラム単位での重量削減、などといった軽量化策はほとんど行なわれていない。
それどころか、特に日本向けのデビュー当初は4WDに4WS、リトラクタブルヘッドライト、ターボ車にはさらに「アクティブ・エアロ・システム」や「アクティブ・エキゾーストシステム」、「ECS」(電子制御ダンパー)といった可変デバイスが積極的に採用されたことも、この重さに拍車を掛けている。
改良を重ね徐々に本格的なスポーツカーへ
三菱自身はデビュー当時、GTOは「クルマが持つ高い性能を種々のレベルのドライバーが、より安全・快適、より自在に楽しむことができるよう、4輪すべてを駆動させるとともに、操舵・制動についても高度に4輪を制御するという、オールホイールコントロール(AWC)の考え方に基づいて開発されたスーパー4WDスポーツカー」であると謳っている。
しかし実際には、北米市場を主眼としたGTクーペであり、走りの性格も「直進安定性は高く悪天候にも強いが重く、曲がらず、止まらない」という、まさに当時の“アメ車”らしいものだった。だからこそ“重戦車”と呼ばれたのだろう。
だがその後、1993年にはヘッドライトを固定式とし、ターボ車のトルクを1kgm高めつつトランスミッションを6速MTに変更する。1994年にはBBS製17インチホイールを装着したうえ、4WS、オートクルーズ、フォグランプを省略しABSもメーカーオプションとすることで60kg軽量化した新グレード「ツインターボMR」を追加。APロッキード製6ポットブレーキもオプションで設定された。
また、1996年のマイナーチェンジではホイールサイズを18インチにアップ。1998年にはフロントバンパー開口部を拡大し、アルミ押出材を使用した大型ウィングタイプリヤスポイラーを採用するなど、走りを着実に進化させている。
しかもGTOはデビュー当初の「GTOツインターボ」で398万5000円、最終モデルの「ツインターボMR」でも397万9000円と、比較的安価だった。だから、高級車をベースとしてスーパーカーさながらのスタイルと加速性能を手頃な価格で実現したGTでありながら、徐々に本格的なスポーツカーへ進化していった、と考えるのがGTOの実像に近いのだろう。