腰の高さにシートがあり段差の少ないクルマがベスト
某自動車保険のTV CMじゃないが、高齢の両親や祖父母を、自身が子供の頃、ドライブに連れて行ってくれた恩返し!? として、ドライブに連れて行ってあげたいと思うのは当然だ。
人間は高齢になると足腰が弱くなり、80歳ともなれば、一般的な男性の場合、20歳時に比べて上肢筋肉量16.4%減(3.0%減)、下肢筋肉量30.9%減(28.5%減)、体幹部筋肉量5.7%(1%増)、全身筋肉量16.8%減(11.0%減)というデータ(カッコ内は女性)もあるほどで、加齢による下半身の筋肉量が減少し、一見元気でも足腰が弱くなり、クルマの乗り降りは大変になってくるものだ。
そこで、高齢者のいる家庭で買うべきクルマの候補として考えられるのが、足腰が弱くなっても乗り降りしやすいクルマということになるのだが、ここでちょっとした誤解があるかもしれない。つまり、シート位置が低いほうがよい、という考え方だ。
たしかに、一部SUVや4WDミニバンのように、多くの人が”よじ登る”ような乗降性のクルマだと、それはもう、高齢者向きとはいえない。基本的には、足の持ち上げ量ができるだけ少なくて済むステップの低さ(ノンステップバスの地上30cmが基準)、乗り込む際に足を運びやすいよう(つまずかないように)、ステップとフロアに段差がないこと(掃き出しフロア)、アシストグリップが適切な位置にあることなどが重要だ。
その上で、シート位置は地上、フロアに対して低すぎても、実は乗降時に腰の移動量が大きくなり、大変なのである。よって、シートの位置は、地上高では高齢者それぞれの腰の位置(身長差がある)に対して、できるだけ高低差のない車種を選び、またフロアに対しては、椅子のように高めにセットされたクルマを選ぶといい。
フロアに対してシートが高いと、乗り降りしにくいんじゃない? と思うかもしれないが、ローソファとダイニングテーブルの椅子で、どちらが立ち上がりやすいかを思い起こせば、理由が分かるはず。もっと言えば、後席は足を引ける(シート下に空間がある)と、より立ち上がりやすいのである。
これもソファに座り、足を投げ出した状態で立ち上がってみれば分かる。健常者でもまず、立ち上がれないはず。立ち上がる際は、自然と足を引いているのだ。加えて誰もが想像できるように、後席の乗降性では、セダンやワゴン、SUVで一般的なヒンジ式ドアより、自動でも開く、開閉に力の要らないパワースライドドアが圧倒的に有利であることもお忘れなく。
ここからは、そんな条件の多くを満たすクルマを、ジャンル別の一例として紹介したい。
ミニバンならシエンタかフリードか?
ミニバンのジャンルで、リヤスライドドア部分のステップ高が340mmともっとも低いのが、トヨタ・シエンタだ。ライバルのフリードは低床自慢のホンダにして390mmと高め。もちろん、ステップとフロアに段差はなく、スライドドア部分の大開口、Bピラーのアシストグリップの装備もあって、車内への乗り込みは楽々だ。
しかも、シートの着座性、立ち上がり性にかかわる、フロアからシート前端までの高さ=ヒール段差はシエンタの場合、340mmとまずまず高く、フリードの310mmを大きくしのぐ。つまり、車内に乗り込んで、シートに座る、立ち上がる・・・・・・のどちらも、シエンタが優位ということだ。
ちなみに、2列目席のかけ心地は、シートそのものの違いによって、3列シートのシエンタより2列シートのシエンタFUNBASEのほうが優れているから、お薦めだ。シエンタFUNBASEの価格はガソリン車で180万9500円から。ハイブリッドなら222万7500円から手に入る。
ちなみに、もっとゆとりあるサイズのミニバンが希望というなら、スライドドア部分のステップ高が世界のクルマの中でもっとも低い部類のホンダ・オデッセイのアブソルートだ。ステップ高は驚異の290mmで、2列目席のヒール段差も、かけ心地、寝心地ともに最高のリラックスキャプテンシート(7人乗り)を選べば370mmとかなり高めで、座りやすさ、立ち上がりやすさは文句なしである。
SUVで高齢者に最適な1台を見出すことはけっこう難しい
SUVの場合、リヤドアは基本的にスイングドアだ。高齢者の乗り降りのしやすさのポイントは、ステップ高の低さ、ステップとフロアの段差小ささ(つまずかないように)、ヒール段差の大きさ、そして意外にも、後席膝周りスペースの余裕が決め手となる。
トヨタ・ライズ、ダイハツ・ロッキーの兄弟車は、リヤドアのステップ地上高こそ425mmと、国産SUVの平均値460mmに対して低いのだが、後席膝周り空間が120mmと狭いことから、乗り降りの際の体の動きの自由度が制限されてしまいがちなのである。
そこで、どうしても高齢者にやさしいSUVを探しているというなら、MクラスのSUVを薦める。まず、リヤドアのステップ地上高に関しては、トヨタRAV4、日産エクストレイル、ホンダCR-V、スバル・フォレスターともに460mm前後と差はない。
続いて、ヒンジ式リヤドアの乗降性の良し悪しにかかわる、リヤドアを全開にしたときの乗降間口(リヤドア内張から後席シートコーナーまでの水平距離)はCR-Vの390mmが最大で、フォレスターが350mm。RAV4は310mm、エクストレイルは295mmとなる。
合わせて、後席膝周り空間の広さでも、クラスで唯一、後席フラットフロアを持つCR-Vが優位(250mm。RAV4 210mm、エクストレイル230mm、フォレスター230mm/いずれも身長171cmのドライバーのドライビングポジション背後の数値)なのだが、残念なことに、CR-Vの後席ヒール段差は310mm(RAV4 320mm、エクストレイル370mm、フォレスター350mm)と、ここで紹介する4台中、もっとも低く、不足気味。
乗り込んでからの腰の移動量の小ささ、立ち上がり性では、ヒール段差が370mmもあるエクストレイル、350mmのフォレスターが好ましい。
ということで、MクラスのSUVの中で、高齢者に最適な1台を見出すことはけっこう難しいが、ここはシート地上高そのものがもっとも低いRAV4を、クルマの基本性能や商品性を含め、イチオシとしたい。価格はガソリン車で274万3000円から。ハイブリッドで334万3000円からとなる。SOSコールやオペレーターサービスの用意もあるから、ドライブ途中、同乗の高齢者になにかあってもより安心だろう。
高齢者に最適なセダンはホンダグレイス一択
セダンタイプの高齢者乗降性で注目すべきポイントは、リヤヒンジドア前提とすれば、ステップの低さ、リヤドア部分の開口部の高さ(乗降時に頭がつかえにくいという意味)、乗り込む際の空間=後席膝周り空間の広さ、そしてくどいようだが、後席のヒール段差の大きさである。
その点で理想に近い1台が、コンパクトなセダンにして、ホンダの魔法のパッケージによって低床、広々とした空間を実現している、フィット(3代目)のセダン版、グレイスだろう。リヤドア部分のサイドシル地上高は365mmと低く、リヤドア部分の開口部もフィットよりずっと広い。
しかも、後席膝周り空間は大型セダンに匹敵する275mmもあり(CR-Vの最大値と同等)、ヒール段差はセダンの標準が300~340mmのところ、なんとフィット3同等の380mmもあり、シート下に空間があり、足を引きやすく、乗降のしやすさ、特に着座状態からの立ち上がり性に優れている。
ただし、グレイスは、とてもいいコンパクトセダンにもかかわらす、2020年7月に生産終了。新車在庫または中古車での購入となる。お薦めのハイブリッド車の新車価格は201万6300円からだった。
もし、グレイスの購入が難し向ければ、すでに説明したように、シートの位置が高齢者それぞれの腰の位置(身長差がある)に対して、できるだけ高低差の少ない車種を選び、またフロアに対して、椅子のように高めにセットされ、足が引けるセダンを選ぶといい。
軽自動車なら両側スライドドアを備えたクルマがベスト
高齢者の乗降性に優れた軽自動車と言えば、間違いなく両側スライドドアを備えた、ステップとフロアに段差のないスーパーハイト系だろう。中でも、スライドドア部分のステップ地上高がもっとも低いのがスズキ・スペーシア(約345mm)。
日産ルークス、ホンダN-BOXが約360mm、ダイハツ・タントが370mmとそれに続く。いずれにしても、345~370mmの範囲なら、スライドドアの開口部の広さやアイスとグリップの適切配置によって、極めて乗り降りしやすいと言っていい。
ただし、問題は車内に乗り込んでから着座するまでの一連の動き、腰の移動量の大小だ。ここでのポイントは、ヒール段差と呼ばれる、すでに説明したフロアからシートまでの高さ。ここが高いほど腰の移動量が少なくて済み、高齢者の着座性、立ち上がり性にメリットがあるというわけだ。
その点では、スズキ・スペーシア(360mm)、日産ルークス(350mm)が理想的。ちなみにホンダN-BOXは340mmだから合格。助手席Bピラーレスのダイハツ・タントはもっともヒール段差の小さい330mmである。
よって、高齢者が後席に乗り降りしやすい軽自動車としては、ステップが低く、ヒール段差がたっぷりあり、ソファではなく椅子感覚で座れ、立ち上がれるスズキ・スペーシアがベストと言えるかもしれない。スペーシアは全車マイルドハイブリッド仕様でエンジンが気持ちよく回り、走行性能、燃費性能も文句なしだ。価格は標準車のHYBRID G、衝突軽減ブレーキを含む先進運転支援機能付きで135万8500円からとなる。
もちろん、高齢の両親、祖父母の身長、足腰の状態などによって、最適なクルマは変わってくる。できれば、高齢者を連れてショールームを訪れ、実際に乗り降りしてもらい、どのクルマがもっとも乗り降りしやすいかをチェックしてもらうのが一番だろう。