モータースポーツの登竜門にピッタリ! 初心者に優しい東北660選手権の基本理念
2011年にスタートした軽自動車のワンメイクレース「東北660選手権」が10年目を迎えても勢いが衰えない。エントリー台数はいまだに増え続け、学生を中心に20代のドライバーも多くいる。人気の秘密は初心者に優しい理念、そしてレギュレーションにあった。
草レースが10年も続き、今なお成長し続けているワケ
東北660選手権は1998年10月に改訂された「新規格」と呼ばれる軽自動車による草レースだ。その上で参加資格はエンジンがNAのみで基本的にはナンバー付き車両に限定。レースはスポーツランドSUGOとエビスサーキットで開催されている。
レースと聞くと「敷居が高い」と思い込みがちだが、このイベントは若者を含めビギナーが非常に多い。しかも参加台数も常に50台を超える大盛況ぶりで、開始から10年が過ぎた現在も増加の一途をたどっている。その人気の理由を考察してみよう。
取材して感じたイチバン大な理由は現場の雰囲気だろう。というのが誰もがコースに出れば本気だけど、パドックの空気は常にアットホーム。大会事務局によると「ガチンコ組にもエンジョイ組にも楽しんで欲しく、お互いが相手をジャマにしない空気を作った」という。
取材してみると確かにモータースポーツに参加する理由はそれぞれ違う。優勝や入賞に価値を見出すドライバーもいれば、仲間といい意味でのレース『ごっこ』をしたい人もいる。和やかなムードを醸成することで他のエントラント話しやすくなり、一緒に練習に行ったり誰かと会うことが参加する目的のひとつになるなど、走るだけじゃくクルマ仲間の話を広げる機会にもなるのだ。
ビギナーに優しいのも東北660選手権の特徴だろう。少しでも不安を払拭できるようスタッフを始め、まわりのエントラントも積極的に声をかけ、パドックは常にいい雰囲気だ。
参加費用が押さえられる仕組みができあがっている
続いてはコスト面。ベース車両が軽自動車のNAなのでタダ同然とはいわないが、普通車に比べ中古車の価格はモチロン、自動車税などの維持費もリーズナブルだ。不幸にもクラッシュで全損になったとしても、金銭的なダメージが少なくて済むのは大きなメリットだろう。
運営側も車両にお金をかけすぎないよう制限しつつ、ある程度のチューニングやドレスアップは楽しめるよう工夫。もっとも改造範囲の狭い『3クラス』であれば、勝てるマシンを作っても50万円くらいで済むという。しかもエアコンを外すのが禁止されており、サーキットまで自走ばかりか通勤や通学に使う人も多くいる。軽量がゆえにタイヤやブレーキは消耗しにくく、細かいことをいえばオイルの容量だって少ない。
次はクラス分け。前述の『3クラス』は表彰台の獲得回数が4回に達すると参加できなくなる。そのため3クラスは毎年のように新しいヒーローが登場し、ひとつ上の2クラスにはよりスキルの高いドライバーが集まるカラクリ。
他に改造範囲をある程度まで広げた1クラスに、2ペダル車両だけの4クラスや電子スロットル車両だけの5クラス、お試しで3回まで参加できる6クラス(車両は他いずれかのクラスに合致)と、経験や車両の仕様で細分化されているのも面白い。
4クラスはATとCVTの車両のみ。参加できる車種の幅が大きく広がるうえ、AT限定免許の人でも気軽にレースを体験できるのだ。
つう 当日は朝イチで安全に走行できるか確認する車検を実施。タイヤも1戦につき4本しか使用できず、ここでも参戦コストが高騰するのを防いでいる。このあたりは公式レースを参考にしたようだ。
またレースを楽しむのはドライバー本人だけじゃない。ピット作業を手伝うメカニックに作戦を考える監督、熱い声援を送る友達や家族らの支えがあってこそ。東北660選手権でいい仲間やライバルに出会った参加者も多くいる。
敷居の低さと安全性の軽視を混同せず、車両やドライバーの装備は公式レースに近い。走行マナーの向上も初年度から力を入れている。
台数が多いだけにトップ集団に限らず、どのポジションでもバトルになる。混戦で揉まれるうちに判断力や運転技術が上達していく。
参加者を見てみると若者からプロの卵まで実に多彩!
ここからは取材当日に参加していた参加者4組を紹介。先述の通り色々な動機で参加しているのがよく分かる。
S.R.F しゅんちゃん とじみら 仲村隼輔選手&筧拓実選手/ミラ(L275V)
普段はそれぞれの愛車で参戦している仲間どうし。セミ耐久レースの特別戦ではタッグを組み、3クラスの準優勝という結果を残した。
DXL KTM 我妻RACING 齋藤友貴哉選手/プレオ(L275B)
製作費も維持費も安く、レースは台数が多くて面白い。軽自動車の魅力にハマった齋藤選手、この日は家族が総出で応援に駆け付けた。
ARY NEXAS FD 元恒冴基選手/アルト(HA23V)
ドリフト界からのニューカマーで、この日が2回目の東北660選手権。パワーのない車は非常に難しく、勉強になることばかりと話す。
坂上智希選手
東北660選手権を卒業し、公式レースに進む人も多い。L700Vミラで長く活躍した坂上智希選手もそのひとりで、10月4日にN-ONEのワンメイクレースでデビューを飾った。
レース後は熾烈な争いを演じたライバルと、笑顔で互いの健闘を称え合う。10代の学生から数々の公式レースを経験したベテランまで、ドライバーの幅や年齢層はかなり広い。
今年は新型コロナウイルス対策で表彰式を簡略化したが、トロフィーや協賛企業からの賞品も多く授与される。来シーズンは以前と同じように屋外でのシャンパンファイトを予定。
今シーズンは10月4日に最終戦を迎えたが、2021年も年4回のシリーズ戦に加え、セミ耐久レースの特別戦と計5回を行なう予定。興味がある人は大会事務局にメールすれば近隣のプロショップを案内してくれるし、いきなりレースは不安であれば一度ギャラリーとして東北660選手権の空気を肌で感じてみよう。そうすれば10年も盛り上がり続けている理由が理解できるし、きっと自分でも走ってみたくなること確実だ!