油圧式は車高調整が速い
ニールダウンは、なにもセレナだけの特権ではない。同ジャンルのスロープ式福祉車両では、トヨタのノアやヴォクシーの「車いす仕様車」でも同様の機構が採用されている。
トヨタ車の場合は、リヤの足まわりにエアサスペンションを採用している。構造を簡単に説明すると、サスペンションユニットに装備されたエアバック内の空気を出し入れすることで、ユニット自体の長さを変えて車高を調整する方式だ。
対するセレナの場合は、前述の通り、リヤに油圧式サスペンションを採用する。仕組みは、車体右側のリヤショック後方に配置したニールダウンパワーユニット(モーター式の油圧ポンプ)により、左右ショックアブソーバー内にある作動油(オイル)の圧力を変えて車高を上げ下げする方式。そのメリットは、高木氏によると「(車高調整の)時間が短く済むこと」だという。
なぜなら、スロープを使った車いすの乗降は雨の日など悪天候時でも行うためだ。車高の上げ下げはできるだけ速く完了する方が、車いすに乗る人や介護者が濡れたりする時間も短くなるというワケだ。
ちなみに、セレナの場合、車高調整時間の目安は車高下げ時で約9秒、車高を上げ時は約6.5秒だ(実測値)。
ただし、油圧式はトヨタ車などが採用するエアサスペンション式と比べると、車高調整時の動作音は比較的大きい。だが、この点も「同じ方式を長年採用していますが、ユーザーから音に関する苦情が出たことはないですね(高木氏)」というから、さほど気になるレベルではないといえるだろう。
ほかにも、スライド式スロープは女性でも片手で簡単に出し入れができるなど、細部に渡り使い勝手の良さが追求されている。
前述の通り、同ジャンル唯一のハイブリッド車というのも大きな魅力だが、このようなユーザー目線の高い利便性や快適性も、障がい者や高齢者がいるファミリーに大きな支持を受けている大きな要因なのだ。