水平対向エンジン搭載の「3列ミニバン」発売は開発陣の悲願だった⁉
エクシーガは2017年(販売は2018年、SUV仕様のクロスオーバー7を含む)まで発売されていた国内では唯一の水平対向エンジンを搭載する「2+3+2」の3列シート/7人乗りミニバンである(当初はミニバンと呼ばず他人数乗り車と称していた。海外では現在もSUVのアセントが存在)。
この7人乗りのミニバンの構想はエクシーガ登場する10年以上前から検討されており、モーターショーではコンセプトカーも数多く出展されたが、浮かんでは消え、消えては浮かぶ感じだった。
ポテンシャルは高かったが、当時の市場ニーズの壁が立ちはだかった
「スバルオーナーの中で子育てや3世帯同居など家庭環境などで3列シートがどうしても必要なユーザー」「ミニバン愛好家の中には走りを諦めたくないオーナー」が一定層いるという判断だったのか、開発陣の悲願であった水平対向エンジン搭載のミニバンは2008年に発売されることになった。
スバルの開発陣は、部品をレガシィと約50%共用することで、性能とコストダウンを両立。室内も全シートで十分な視認性と居住性を確保できるシアターシートレイアウト、室内の圧迫感低減のために全高を同時期に発売されていた4代目レガシィよりも130㎜拡大、一般ミニバンユーザーへの訴求を考え、エントリー価格を引き下げるために10年ぶりにFF車設定するなど、ミニバンとしての基本性能を徹底的に磨き上げることで、群雄割拠のマーケットに果敢にチャレンジした。
発売当初の自動車雑誌を改めて見返すと、いずれも高評価であったが、正直生まれた時代が悪かった。というのも登場した2008年のミニバンマーケットは、ウイッシュやストリームといったヒンジドアのミニバンがスライドドアミニバンとの戦いに敗れ、すでにシェアが下がっていた時期。敗戦濃厚な戦場に、単独で敵の本陣に突入するような状況では、いくら一騎当千の強者でも劣勢を覆すことは難しく、さらにリーマンショックの追い打ちもあり、発売当初から苦戦が続いた。
限界性能ではなく、走りの質を高める専用チューニングを施す!
だが、先進運転システムである「アイサイト」の採用や2.5Lエンジンの追加、最新のCVTの搭載など改良を重ね、魅力と完成度が高まるとともに、クルマとしての基本性能の高さが認知されたのか、販売台数がじわじわと回復した時期があった。
2015年にはミニバンから流行の兆しを見せていたクロスオーバーSUV(クロスオーバー7)へと大胆なカテゴリーチェンジを慣行したが、人気復活とはならず、2017年に生産中止となっている。最終的には当時狙っていたミニバンの浮動票を確保するまでは至らなかったが、スバルの真摯なクルマ作りに共感するマニアックな層から今なお一定の支持を得ている。
その最強バージョンといえるのがアプライドB型をベースにSTIの手でカスタマイズが施された「2.0GT tuned by STI」だ。プレミアムなSシリーズと異なり、専用セッティングのEJ20ターボエンジンには手を加えられていない(排気系のみ交換)が、足まわりと内外装にファインチューンを加えてベース車の良さをさらに引き出す仕様だ。
ボディはフレキシブルタワーバー&ロアアームバー、サポートバーを組み込み、シャシーやボディを強化した上で、専用サスペンションをインストール。ただし、エクシーガはスポーツカーではなくミニバンなので、限界性能を極めるのではなく、ステアリングフィールや路面追従性を高めることでクルマとの一体感を追求している。
それに大きく貢献しているのが、リアサスペンションのラテラルリンクのピロボール化。リアのスタビリティを高めるとともコントロール性を向上させる効果があり、小さな部品だがtuned by STIの走りを支える縁の下の力持ちといったところだ。
「tS」はボディ剛性アップとブレーキを強化して完成度UP
その他、1本あたり1.5㎏軽量された17インチホイール、フロントリップスポイラー追加するとともに、220㎞/hにスケールを拡大されたスピードメーターに、STIロゴとチェリーレッドのステッチがあしらわれたシートなど、内外装に特別感もタップリ。これでベース車の2.0GTの約60万円高とリーズナブルだった。
tuned by STIは「tS(tuned by STIの略)」と名称は変えて2012年(アプライドE型)に再登場。
2009年&2012年に300台限定発売されたエクシーガのtuned by STI&tSは、インプレッサのように限界性能を高めるのではなく、同乗者を含めて楽しさや気持ちよさを優先に開発された質の高いコンプリートカー。生産中止から3年が経過したが、クルマと対話できるミニバンとしてはいまだその実力は一級品なのだ。