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「イジる」か「どノーマル」か? 500台限定の激レア「スープラ」を愛する2オーナーの両極端な生き様

スープラだけのオフ会に世界限定500台のクルマが並ぶ

 10月11日、富士スピードウェイのイベント広場ではスープラオーナーズクラブが主催する「スープラ全国ミーティング2020」が開催された。参加台数は約350台、現行のDB型から懐かしのセリカXX(A60)まで、歴代の名作が集結。今回は会場を歩いていて特に目についた、2台の「7M-G搭載」のMA70スープラ(以下70スープラ)を取り上げてみる。

 その2台だが、ミーティングにブース出展していた茨城県の「レッドフィールド(http://www.redfield-inc.com)」というチューニングショップの展示車両としての参加。しかもただの70スープラではなく、当時、全日本ツーリングカー選手権に出場するためのベース車として500台のみ限定で発売された稀少な3.0GTターボA。これだけでも目を引くのに、左側の車両はなんと2JZ換装仕様。それに対して右はほぼノーマルの車両という、なかなか見ることのできない比較展示。スープラ好きならつい見てしまうモノだけに足を止めてじっくり見ていく人は多かった。

戦うために生まれたクルマをより長く走らせるための「改造」という選択

 それでは2JZ換装仕様のMA70スープラから紹介しよう。こちらはストリートからサーキットまで楽しむためのクルマとのことで、いまでこそ2JZが積んでいるが、もともとは7M-Gでチューニングを頑張っていたという。だが日本国内にいよいよ7M-Gのエンジンパーツがなくなってきたことをきっかけに2JZ後期への換装に踏み切ったとのことだ。

 換装のドナーになったのはJZS161アリスト。こうした場合、エンジン単体を探してくる人もいるが、実際の換装作業では大小こまごまと流用するパーツが出てくるので、作業効率を考えるとクルマごと用意するほうが合理的だという。

 もともと6気筒エンジンが載っていたこともあり、2JZを積むにあたってエンジンルーム内の形状加工は不要だったが、いざエンジンをあわせてみるとフロントメンバーにあるマウントのボルト穴位置が合わない。そこで調べてみるとMA70スープラターボAには2種類のフロントメンバーがあることが判明。そこでこちらのクルマについていたのと違うメンバーを使用すると問題解決。また、アリスト用の2JZはオイルパン形状がスープラのメンバーにあわなかったので、ここはJZA70に積んでいる1JZのオイルパンを流用したとのこと。

 搭載に関して他にも苦労はあったようだが、それ以上に大変なのが制御系。エンジンを積み替えるとはいえ、基本はMA70スープラが好きで乗っているので「変えなくていいところは極力変えたくない」とことから、オーナーはメーターやエアコン等の制御が純正同様に動くことにこだわった。そこでECUはエンジン換装時の定番とも言えるフルコンを使わずに、MA70スープラ純正ECUにHKSの「F-CON V Pro」という仕様をチョイス。

 ただ、そうなるとエンジンを動かすには2JZのエンジンハーネスとMA70スープラの車体側ハーネスをつなぐことが必要になるのだが、これがトンでもない大仕事になったという。アリストは制御系にCANという高速通信を使用しているので、信号系の配線はCANハイとCANローの2本しかない。それに対して旧式の配線網を使っているMA70スープラはなんと約90本の配線があり(!!)、この配線作業に非常に手間と時間が掛かったという。

 なお、F-CON V Proは電子制御スロットルの制御ができないので、ここはコンバージョンキットを使いワイヤー式スロットルに変換されている。このECUまわりについて現状はまだフィッティングとセッティングの途中とのことだったので、助手席足下にはいかにも「作業中」という感じでF-CON V Proなどが置かれていた。

 そんな苦労の甲斐あってまるで違うエンジンを積んでいても純正メーターは「ふつうに」動き(水温計は苦労したという)その他の電装系の動作もノーマル同様に使えるようになったという。また、車体側配線がMA70スープラのままなのでもし7M-Gに戻したくなったときも作業が容易なのである。

 次はサスとブレーキ。サスキットはいろいろ使ってきたとのことだが、今のお気に入りは台湾のXYZというブランド。街乗りからサーキットまでオーナーであるFサンの乗り方に特性がマッチしていてしかもリーズナブルなのが魅力という。オーバーホールに対応していないようだが安価なぶん「ヘタったら買い直す」ことが可能なのだ。

 Fサンには「年代物のMA70スープラには17インチホイールがマッチする」という持論と「BBSのLMが好き」という譲れないこだわりがあったので、あえてイマドキの大きなキャリパーキットは使わず、17インチのBBS LMに収まるサイズだったXYZ製の4ポットキャリパー大径ローターのキットを装着した。

 エンジンパワーは約600psほどあるが無理しすぎることもなく、周回も適度にクーリングラップを入れている。それにタイヤはストリートサイズのラジアルしか使わないしウイングを付けていない仕様なので現状このブレーキに不足を感じていないとのことだった。でも、たしかにMA70スープラには17インチのエアボリュームが適度にあるタイヤのほうが年式のイメージに合う気がするし、適度に落ちた車高と併せて「速そう」な雰囲気でもある。

 元がターボAなのでエンジンを載せ替えてしまうのはちょっともったいない気もするが「走るために乗り続けているクルマ」であるからには、継続的にエンジンのチューニングや修理が可能な環境であることも大事。そこで選んだ2JZ換装という手段。奇抜な仕様であることはたしかだがこれはこれでアリだし、旧車なのにバカっ速というのもいかにもチューニングカーらしく、かなり楽しそうなクルマという印象だった。

大事に乗られてきたクルマを引き継ぐ「保存&修理」というアプローチ

 もう1台のMA70スープラのオーナー、Nサン。こちらはノーマルっぽさを維持しているクルマ。2016年に手に入れたと言うこと。

 Nサンは以前80スープラに乗っていたとのことだが、なんと車両盗難にあってしまう(怒!)。そこで代わりのクルマを探したのだが、次もやはりスープラという名前のクルマに乗りたい気持ちが大きかった。もちろん80スープラを買い直すことも考えたが、Nサンは以前から「リトラクタブルライトのクルマ」に乗りたい気持ちを持っていた。そこで70スープラなのだ。なお、いろいろなモデルがあるなかでターボAにした理由を聞いてみると「どうせ乗るなら70スープラを代表するモデルに」という考えから選んだとのことだった。

 Nサンが手に入れたのはもちろん中古車。ルーフのクリアが経年劣化で剥げている部分があったが大きな傷や凹みはない。また、内装も革シートの傷みがあるがノーマルを維持している。それにホイールもノーマルという全体的には程度のいい車両だった。

 エンジンはオーバーホールをしていないまま20万キロ以上走っていたそうだが、歴代オーナーがきちんとオイル交換をしてくれていたのか、これだけの距離を走っていながら調子はよく異音等の発生もない。それにエンジンオイルの消耗も起きていないという。ターボAは当時からチューニング目的で乗っていた人も多いクルマなので、エンジンがここまで調子を維持しているのは奇跡に近い状態だろう。とてもいいクルマである。このミーティングにも宮城県から自走で参加しているとのことだった。

 ボディの程度がよくエンジンも好調と恵まれた状態のクルマだが、そこはやはり80年代のクルマ、細かいトラブルはいろいろ経験することになったという。大きなところではオルタネーターが故障して発電しなくなったり、ラジエターのアッパータンクが割れて冷却水が漏れることが2回。それとヒーターホースの破れも経験しているが、純正パーツがもう手に入らなかった。

 そこで探しまくった結果、アメリカ製のパーツがあることを知り、それをなんとか手に入れて修理をしたそうだ。そしてエアコンもガス抜けがあるようでここの修理をどうするかが今後の課題のようだ。

 こうした苦労はあるけどNサンはこのMA70スープラの乗ってよかったと思っているとのことだ。今回のようなミーティングではターボAということから、同じスープラ乗りに声を掛けてもら宇ことが多いし、ガソリンを入れに行ったスタンドで、自分より年上の人に「70スープラいいね、しかもターボAだね、すごい」と言われることもよくあるそうだ。こうしたクルマを通じての出会いは往々にして「気持ちのいいもの」なので、その機会を作ってくれる70スープラはオーナーにとって多少の苦労があっても乗り続ける価値のあるクルマだということである。

 このように「変えていく」ことで楽しむスタイルと、「直していく(戻していく)」ことを楽しむスタイルの2台。こうした楽しみ方は機械的なイジりがアレコレできる旧車でなおかつオーナの気持ちがグッと入るクルマでなけれ味わえないものだと思うけど、そこはMA70スープラのしかも3.0GTターボA、題材としてはこれ以上ないくらい十分なモノ。こうしたクルマとの付き合いかたはクルマが好きな人にとってひとつの理想形でもあるので、今回のこれをひと言で言うと「いいもの見せてもらいました」である。

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