官能的エンジンと絶品シフトフィール
さて、5速MT車で280ps&30.0kgm、4速AT車で265ps&30.0kgmというC30A型・V型6気筒DOHC VTEC、後に6速MTと組み合わされた280ps&31.0kgmのC32B型・V型6気筒DOHC VTECエンジンは、今となっては現行シビックRのK20C型直列4気筒VTECターボよりもロースペックだ。
しかし、8000rpmを許容するその高回転・出力型NAユニットがもたらす天井知らずの吹け上がりとレスポンス、甲高くもまろやかなV6サウンドには、K20C型エンジンを大きく上回る官能の世界がある。また、そこそこ腕に覚えのあるドライバーならば存分に使い切れるパワー・トルクというのも、操る楽しさに直結しているのは間違いない。 さらにMT、特にタイプR(NSX-R)用のクイックシフトは絶品そのもの。これを上回るシフトフィールを持つ量産車は、恐らく同じホンダの、またNSXと同じく上原繁氏が開発を指揮したFRピュアスポーツオープンカー・S2000だけだろう。
超軽量&高剛性のオールアルミボディ
そして何より、初代NSXには世界初となる、もっとも重い最終型タイプTの4速AT車でも1430kg、もっとも軽いNA1型タイプRのエアコンレス車で1230kgという軽さを可能にした、オールアルミモノコックボディがある。
だが、オールアルミモノコックボディがもたらしたものは、それだけではない。1990年デビューの日本車、とりわけホンダ車としては飛び抜けて高いボディ剛性を兼ね備えていた。これが、コンパクトスポーツカーさながらの軽快なハンドリングと、スーパースポーツとしては極めて快適な乗り心地、そして当時のミッドシップカーとしては異例に高い直進安定性を実現する鍵となった。
意外なまでに使いやすく日常的に乗れる
最後に、良くも悪くも初代NSXを特徴づけている、長大なリヤオーバーハングについて言及したい。これは後のミッドシップスーパースポーツと、それをベースとしたレーシングカーの多くが同様の手法を採ったことからも分かるように、空気抵抗の低減とリヤダウンフォースの増大、横風に対する安定性の向上に大きく貢献している。
しかもそれが、日常の買い物や小旅行程度なら充分に実用的なトランクルームを生み出しているのだから、もはや言うことはあるまい。そう、初代NSXは、買い物からサーキットまで、ファーストカーとして毎日を共にできるスーパースポーツなのだ。
筆者が10年ほど前に所有していたNSXは、電装系のトラブルで走行中にエンジンストールを頻発するようになったため、わずか1年で手放さざるを得なくなった。だが、もしそれがなかったならば、きっと今でも乗り続けていたことだろう。