ホンダが本気で作ったミッドシップスーパースポーツ
初代ホンダNSXは1990年9月に発売され、2005年12月に生産終了するまでの約15年間、全世界で約1万8千台が生産された。つまり、最も新しいものでも15年、最も販売台数の多かった初期型では30年もの時が経過しているにも関わらず、今なお残存台数は少なくない。
そして中古車市場では、初期型でも程度の良いMT車なら新車当時の価格に近く、またはそれ以降のモデルでは新車時を遥かに超えるプライスタグを提げる個体も数多く見受けられる。
扱いやすい絶妙なボディサイズ
2代目NSXがデビューしてから早4年、それでも初代NSXの人気がますます過熱し続けているのはなぜなのか。10年ほど前に初期型のMT車を中古で購入し約1年所有していた筆者の実体験から推察すると、その理由は「スーパースポーツとしては望外に扱いやすく楽しいから」、これに尽きると思われる。
この小ささが、ワインディングやミニサーキットはもちろん普段の街乗りにおいても、扱いやすさと楽しさに直結することは言うまでもない。
なお、初期型に限って言えば、最低地上高が135mmと高く、タイヤサイズはフロント205/50ZR15&リヤ225/50ZR16と偏平率が高い。そのため、大きな凹凸や強い傾斜、高い輪止めでも、スーパースポーツとしてはさほど神経質にならずとも済むのは、街乗りでの扱いやすさにおいて大きなプラス材料だった。
そして、サイズが大きく曲率も高いガラスを多用し、さらにインパネを低く、各ピラーを細く設計することで実現した、水平方向311.8°という極めて広大な視界は、今なおミッドシップのスーパースポーツではトップクラス。
官能的エンジンと絶品シフトフィール
さて、5速MT車で280ps&30.0kgm、4速AT車で265ps&30.0kgmというC30A型・V型6気筒DOHC VTEC、後に6速MTと組み合わされた280ps&31.0kgmのC32B型・V型6気筒DOHC VTECエンジンは、今となっては現行シビックRのK20C型直列4気筒VTECターボよりもロースペックだ。
しかし、8000rpmを許容するその高回転・出力型NAユニットがもたらす天井知らずの吹け上がりとレスポンス、甲高くもまろやかなV6サウンドには、K20C型エンジンを大きく上回る官能の世界がある。また、そこそこ腕に覚えのあるドライバーならば存分に使い切れるパワー・トルクというのも、操る楽しさに直結しているのは間違いない。
超軽量&高剛性のオールアルミボディ
そして何より、初代NSXには世界初となる、もっとも重い最終型タイプTの4速AT車でも1430kg、もっとも軽いNA1型タイプRのエアコンレス車で1230kgという軽さを可能にした、オールアルミモノコックボディがある。
だが、オールアルミモノコックボディがもたらしたものは、それだけではない。1990年デビューの日本車、とりわけホンダ車としては飛び抜けて高いボディ剛性を兼ね備えていた。これが、コンパクトスポーツカーさながらの軽快なハンドリングと、スーパースポーツとしては極めて快適な乗り心地、そして当時のミッドシップカーとしては異例に高い直進安定性を実現する鍵となった。
意外なまでに使いやすく日常的に乗れる
最後に、良くも悪くも初代NSXを特徴づけている、長大なリヤオーバーハングについて言及したい。これは後のミッドシップスーパースポーツと、それをベースとしたレーシングカーの多くが同様の手法を採ったことからも分かるように、空気抵抗の低減とリヤダウンフォースの増大、横風に対する安定性の向上に大きく貢献している。
しかもそれが、日常の買い物や小旅行程度なら充分に実用的なトランクルームを生み出しているのだから、もはや言うことはあるまい。そう、初代NSXは、買い物からサーキットまで、ファーストカーとして毎日を共にできるスーパースポーツなのだ。
筆者が10年ほど前に所有していたNSXは、電装系のトラブルで走行中にエンジンストールを頻発するようになったため、わずか1年で手放さざるを得なくなった。だが、もしそれがなかったならば、きっと今でも乗り続けていたことだろう。