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「福祉車両」なんて呼ぶからハードルが高いだけ! じつは誰にでも便利な機能が満載なクルマだった

幅広い車種に広がったら便利すぎる!

 福祉車両にはいくつかの種類があるが、高齢者など含め、乗降を楽にする助手席回転シートという装備がある。福祉車両の中でも身近な車種の一つだ。これは、座席が外側へ回転することで、ドアを開けた際に腰かけやすく、また降りるときにも足を地面に着けやすい。

 これが、運転席にもあれば乗降がより楽になるのではないかと思っていたら、ヤリスの運転席に、ターンチルトシートというのが注文装備(メーカーオプション)として設定されている(一部装備できない車種がある)。

 操作は簡単で、運転席を回転できる位置まで前後移動して合わせ、そうすると座席脇のレバーが起き上がり、レバーを引き揚げながら回転させるとサイドシルの上まで座席が回転する。それによって、足を外へ出しやすくなるのだ。

 この機能は、たとえばスカート姿や、和服を着た場合にも便利であるはずだ。

 座席への乗り降りのしやすさについては、従来、イグニッションスイッチを切ると座席が後ろへ移動し、足元を広くして乗降しやすくする機能はあった。だが、一方でこの機能は、座った後にイグニッションを入れる際、現在はブレーキペダルを踏まないと作動しない仕組みになっているので、ブレーキペダルに足が届きにくくなる弊害もあった。

 また、ヤリスのターンチルトシートは、車高の高くなるSUV(スポーツ多目的車)にも有効ではないか。最低地上高が高くなるため、とくに降りるときには泥に汚れたサイドシルでズボンなどを汚しかねない。また、足が地面にすぐ届かず、飛び降りるような様子になることもある。

 運転席への回転シートという機能は、もっと幅広い車種に広がったら便利で、楽だろう。

手だけで運転ができればペダルの踏み損ないを減らすことにもつながる

 次に、足が不自由な人が自分で運転するための装置を取り付けた福祉車両がある。ホンダ・フィットや、マツダ・ロードスターに、用意がある。

 これは、加速と減速をレバーの前後操作で行い、ハンドルにはグリップを設けて片手で回せる仕組みだ。これにより、足でペダル操作をしなくてもクルマを走らせられる。

 実は、足を使わず手だけで運転するのは楽なのである。そして、足を動かさないことにより、座席に座ったあと体がずれにくい利点もある。

 その疑似体験を、運転視線機能の一つである全車速追従型の車間距離維持装置(ACC=アダプティブ・クルーズ・コントロール)を利用してできる。

 一定速走行の速度設定機能を利用し、カーブの手前で設定速度を下げることで、ブレーキペダルでの減速操作なしに安全に曲がることができる。そして直線に入ったら、再び設定速度を元へ戻すと、速度が高まる。ただし、カーブの半径や奥行きなどを目測し誤ると速度が高すぎるなどしてしまうので、ブレーキペダルで減速する心構えは必要だ。

 それでも、たとえばメルセデス・ベンツの速度設定は、操作がしやすく、応答も早いので、これを利用すると、高速道路などの自動車専用道路ではほぼ足を使わずに走らせることができる。足のペダル操作をしないことで、ペダルの踏み損ないを減らすことにもつながる。

 電気自動車(EV)や、日産がe-Powerのハイブリッド車(HV)で利用できるアクセルのワンペダル操作も、ペダルの踏み替え操作を減らせる点で運転を楽にさせる。そのように、ふだん無意志にやっている足のペダル操作は、案外、疲れたり、神経を使ったりしていることなのだ。

 余談だが……かつて、レーシングカートをEVに改造したERK(エレクトリック・レーシング・カート)で、ハンドルをバイク用のスポークハンドルに付け替え、手の操作でアクセルとブレーキも操れるように改造したのを運転したことがある。手の操作だけでも、タイムアタックに夢中になれるほど、運転を楽しめた。2輪ライダーだった青木琢磨選手にも試してもらったが、さすがプロフェッショナルは見事なさばきでコースを駆け抜けた。

 元F1ドライバーでスイス人の故クレイ・レガッツォーニは、事故で負傷し、車椅子を使わなければならなくなったが、それを機に、障害者向けのドライビングスクールをはじめた。そこで使われる車両は、手だけで運転できるように改造されていたが、「健常者もドライビングスクールに訪れ、手だけの運転を楽しんでいる」と話してくれた。

 福祉車両の機能は、乗降のための手すりなどのような用品も含め、障害を持つ人や高齢者だけでなく、すべての人にとってクルマを身近にする可能性が高い。標準車と福祉車両の区別が減っていくことで、クルマを使いたいと思う人が増えるかもしれない。

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