オンライン大会が盛んなeモータースポーツ
ゲームの世界で競い合うeスポーツ。中でもドライビングシュミレーターゲームを扱ったジャンルは「eモータースポーツ」と呼ばれている。ここ数年、日本でもさまざまな大会が行われ、昨年の茨城国体では文化プログラムとして採用され話題を呼んだ。
今年はコロナの影響でリアル世界での大会はまったくといっていいほど行われなかったが、その分オンラインでの開催は目立っていた。オンライン大会の模様はたいてい動画配信されるので、Youtube等でeモータースポーツを知った、観戦したという人も多いのではないだろうか。
中には「自分も大会に出てみたい」「腕には自信がある」とゲーマーもいるかもしれない。そこで今回は、eモータースポーツへの参加方法や必要なモノ・魅力などを調査すべく、「JeGT GRAND PRIX」を主催するNGM株式会社の北浦代表に話を聞いた。
【必要な環境】まずはオンラインゲームできる環境があればOK
当然ながらマストなのはゲームソフト&ハード。eモータースポーツで最もメジャーなのはSIEI(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)のグランツーリスモシリーズで、現行タイトルは「グランツーリスモSPORT(2017年10月発売)」だ。ハードはPS4となる。なお先日リリースされたPS5で最新作となる「グランツーリスモ7」が開発されているが、発売は来年以降だと思われる。
「国内のeモータースポーツ大会で使用されるタイトルの多くはグランツーリスモだと思います。日本で生まれたタイトルですので、やはり人気は圧倒的ですね」と北浦さん。
あとはモニターまたはテレビ、インターネット環境があればOK。つまり普通にグランツーリスモSPORTをオンラインでプレイしている人なら、すでに最低限の準備は整っているのだ。
「大会で選手たちが使っているようなハンドルコントローラーは必須ではありません。普通のコントローラーでも腕は磨けますし、それで速いプレイヤーも数多くいます。ちなみに業界ではハンドルコントローラー派を『ハンコン勢』、普通のコントローラー派を『パッド勢』と呼んだりしています」。
ただし、オフラインの大会になるとハンドルコントローラーで競うのが普通で、これまで結果を残してきた選手は日常的にハンドルコントローラーを使っている。予算やスペースに余裕があるなら導入を考えてみてもいいだろう。参考コストは安いもので2~3万円、中堅レベルで4~5万円、トップクラスの選手が使っているのは10万円ほどだという。
【参加方法】エントリー方法や条件は大会によって異なる
次は大会の参加方法、参加資格について。いくつか具体例を簡単に紹介しよう。
グランツーリスモSPORT公式の「ネイションズカップ」は、予選であれば誰でもスポーツモード(オンライン)から参加できる。ただし先の大会に進むには予選で成績上位に入る必要があり、大多数のプレイヤーは予選で振り落される。間口は限りなく広いが、本大会まで進むためには狭き門を通過する必要がある。
前述した茨城国体、さらに今年は鹿児島国体の文化プログラムとして採用された「全国都道府県対抗eスポーツ選手権(※鹿児島国体延期につき文化ブログラムではなくなったが、大会は今年12月に行われる)」についても、オンラインで都道府県予選→ブロック代表決定戦→本大会と段階を踏んで参加選手を絞っていく方式。予選は年齢や居住地域などの決まりはあるが、基本的に誰でも参加できる。その後は上位成績者だけが生き残っていき、最終的に決勝戦は12名(一般の部と少年の部それぞれ)で争われる。
2019年に立ち上がり、今年12月から公式シリーズが開幕する「AUTOBACS JeGT GRAND PRIX 2020 Series」の場合は、参加資格の時点でかなり絞られる。個人戦のエントリー資格は「リアルレース活動を本業とするプロレーサー」または「JeGT認定ドライバー」に限られるのだ。
JeGT認定ドライバーになるには、JeGTが定めた認定基準を満たす(JDSというグランツーリスモSPORTを使った試験に合格する)必要があり、難易度は高い。
「大会によっては年齢でクラス分けがあったり、18歳以上でないと参加資格が得られないこともあります。また細かいスケジュールやレギュレーションについては各大会によって異なるので、興味のある方はWEBサイト等でその大会の概要をチェックしてみましょう」と北浦さん。
コロナ禍以前は全国各地の商業施設やeスポーツ施設でオフライン大会も行われていて、「オンラインで予選、オフラインで本大会」というケースも多かったが、今は最初から最後までオンラインが主流。いずれコロナが収束すれば、オフライン大会も復活するだろう。
【テクニック】一体どれくらいの腕があれば通用するのか?
eモータースポーツもリアルスポーツと同じで、一定以上のレベルに達していないと予選はともかく、本大会には出ることすらできない。では一体どれくらいの腕があればイケるのか?
「どのくらいと言葉にするのは難しいですね(笑)。トップクラスの選手ともなると、毎日欠かさず数時間は練習して腕を磨いている。それに応じてどんどん大会のレベルも上がってきていますから。ただ各地のコミュニティが開催しているような小規模な大会でしたら、そこまでシビアではなかったりします。まずはスポーツモードでプレイして、DR(ドライバーズレーティング)を上げていくのがいいでしょう。自分がどれくらい上手くなったかの目安になります」と北浦さん。
最近はプロのレーサーがeモータースポーツでも活躍しているが、彼らは単にその知名度から優遇されているわけではない。実際に上手いのだ。
「これはeモータースポーツ特有で、リアルとバーチャルで共通している部分が多い。だからリアルで速ければバーチャルでも速く、バーチャルで速ければリアルでも速かったりします」。
たとえば昨年のスーパーGT・GT300クラスでシリーズチャンピオンに輝いた福住仁嶺選手や、全日本フォーミュラ3選手権で活躍している大湯都史樹選手は、eモータースポーツ業界でも「かなり速い」と有名だ。逆にイゴール・フラガ選手のように、eモータースポーツで実績(ネイションズカップ初代王者)を残してからリアルレーサーになったケースもある。
今後もプロレーサーとeモータースポーツの二刀流選手や、eモータースポーツ出身のプロレーサーも増えてくると思われる。いつかリアルレーサーになってみたいという人は、まずは低コストで練習できるeモータースポーツからスタートするのもアリかも!?
【賞金】海外では高額賞金もあるけど日本ではどうなの?
eスポーツの大会では賞金が出ることもある。海外では数百万円~数千万円単位の優勝賞金が用意されることも珍しくない。ただ日本では景品表示法等、法律上の複雑な問題があり、これまでは高額賞金を出すのが難しい環境だった。しかし最近はそうした問題も業界の努力によってクリアになりつつあるという。
「12月から始まる『AUTOBACS JeGT GRAND PRIX 2020 Series』では、賞金総額が500万円と国内最高額になっています。個人戦の優勝賞金は100万円、チーム戦の優勝賞金は150万円、残る250万円は準優勝・3位・その他個人賞に振り分けられます」と北浦さん。
野球やサッカー、ゴルフといったリアルスポーツの世界にはプロがいるし、モータースポーツも同様だ。彼らはプロ選手としての報酬や賞金を得て生活している。今後はeモータースポーツもそうしたジャンルの1つに数えられるようになるかもしれない。
「お金がすべてではないのですが、やはり高額賞金がもらえるとなれば話題になりますし、興味を持つ人も出てくるはず。そうすることでeモータースポーツ人口を増やし、業界の活性化に繋げられたらと考えています」。
オンラインでゲームできる環境さえあれば、誰でもスタート地点には立てる。前述の通り、eモータースポーツはリアルモータースポーツ、ひいてはクルマ業界とも親和性が高い。若者のクルマ離れが叫ばれて久しいが、eモータースポーツをキッカケにクルマ業界の「若返り」も期待したいところだ。
【取材協力】
◆NGM株式会社 https://n-g-m.com
◆JeGT GRAND PRIX https://www.jegt.jp
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