ドアを斜め上方に跳ね上げるカスタム
クルマのドアをカスタムする手法で、2000年前半頃に一世を風靡したのが「ガルウイングドア」。ドアを斜め上方に跳ね上げる方式に変更することで、普通の国産車がスーパーカーのようなフォルムになることが人気を博し、かつてはクーペやセダン、ミニバンや軽自動車など、幅広い車種で大流行したのだ。ここでは、そんなガルウイングドアとは、どんなカスタムなのかについて紹介する。
ランボルギーニのドアが由来
ガルウイングドアは、英語で「Gull Wing door」と標記するが、これは日本語で「カモメの翼」を意味する。元々は、1954年にメルセデス・ベンツの300SLが採用した、車体の外側上方に向かって左右のドアが開く方式を指し、前から見たドア全開時の姿が、飛行中のカモメに似ていたことから付けられた愛称だ。
一方、日本やアメリカなどのカスタムマシンに多く採用されるのは、厳密にいうとベンツ式と違い、ランボルギーニの代名詞ともいえる、斜め上方にドアを上げ下げする方式だ。欧米では、この方式をハサミのような動きをするため“シザースドア”、もしくはランボルギーニのドアという意味で“ランボドア”とも呼んでいる。
日本では、1970年代のスーパーカー・ブームの時から、ランボルギーニ式も“ガルウイング”と呼んでいたため、カスタムとして流行した時も、その呼称がそのまま使われたのだろう。
2000年代に流行した「スポコン」が発端で流行
カスタムとしてのガルウイングドアが、いつ頃から日本で行われていたのかは不明だが、大流行の契機となったのは2000年代前半に人気を博した「スポコン」からだ。
これは、映画「ワイルドスピード」シリーズのヒットにより、アメリカで大流行した「スポーツコンパクト」というカスタムジャンルの愛称(1970年代にテレビでヒットした「スポーツ根性ものドラマ=スポ根」とは違うので念のため)。
映画では、ホンダのシビックやトヨタ・スープラ、日産・スカイラインGT-R、マツダ・RX-7など、国産スポーツカーをカスタムしたクルマたちが大活躍する。
派手なエアロやGTウイング、ネオン管などの光モノパーツといった、アメリカ的な解釈でカスタムされたクルマたちは、“派手で目立つ”ドレスアップ的要素が強く、“速さ”を重視する日本の“チューニングカー”とは一線を画していた。
そして、そういった劇中のクルマのカスタムが、当時の若者に受け入れられ、日本では「スポコン」として流行したのだ。
ガルウイングドアも、そういったスポコン・カスタムのひとつとして、当時アメリカで高い人気であることが紹介され、日本でも火が付き、様々な車種に取り入れられることになる。
当初は、主に2ドアクーペ車だけに付けられていたが、そのうち4ドアセダンやSUVなどにも車種が拡大。また、スポコンは基本的にアメリカで販売された国産車をベースとするスタイルだが、VIPカーなど他ジャンルにもブームが飛び火し、高級セダンやミニバン、軽自動車などにも、ガルウイングドア車が急増。
当時は、ドレスアップコンテストなど様々なカスタム系イベントで、ランボルギーニばりにドアを斜め上方に跳ね上げた多種多様なクルマが、十数台近くずらりと並ぶといった光景も珍しくなかったほどだ。
現在はカスタムキットもある
現在、ガルウイングドアのカスタムは、ショップのオリジナルやLSD-Doorsといった海外製のキットがあり、クルマの板金加工は必要となるが、比較的手軽に取り付けることができる。
ガルウイングドアの基本的なカスタム法は、純正のヒンジをドアが斜め上方に上がるような形状や仕組みにしたガルウイング用へ交換し、開いた際にドアを支える油圧ダンパーを取り付けるのが一般的だ。
十数年以上も前の流行当初は、まだキットがさほどなく、ワンオフ加工して取り付けることも多かった。ユーザー自らDIYで製作したものもあり、そういったクルマにはかなり粗悪なものが存在したのも事実。例えば、自作したヒンジの動きが悪くドアを上げづらかったり、取り付けた油圧ダンパーが安物で、ドアの重さを支えられず、上方でホールドせず落ちてくるといったものだ。
特に、一旦上げたドアが意図せずに下がるのはかなり危険だ。ジワジワとゆっくり下がる分にはまだ逃げようもあるが、急に落ちて人が車体とドアに挟まれでもすると、クルマのドアはかなり重いため、大怪我に繫がることさえある。
このところ見かけるガルウイングドアにカスタムしたクルマは、キットを装着していて昔のような粗悪な自作品はなくなっている。もし自分の愛車をガルウイングドアにする場合は、安全面には十分に注意して欲しい。キットを選ぶ際は、動作などに実績があり、できれば汎用タイプより自分のクルマ用に専用設計されたものの方がいいだろう。