走行距離「730km」! 工場から出たままの状態で残されていた奇跡の1台
諸井さんが車両を引き取る当日、実車の確認をするために前オーナー宅に訪問したところ、すでにR360クーペは積載車に乗せられていた。そこで気づいた新品のハンドルカバーやホイールキャップと言ったデットストック品にまずは驚いた。その後実車確認もままならず、諸井さんのガレージに迎え入れてふとメーターを見たところ、さらにひっくり返りそうになったという。
「走行距離が730kmになっていました。当然ですが最初は『ひと回りしたかな?』って思いましたよ。ただ、リアのアクリルウインドウの状態を見ても磨いた形跡もないし、ウエザーストリップは劣化しているので交換をしたようには見えないですし……。まさかとは思いましたが、その後いろいろと確認をしていくと、新車から730kmしか走っていない、本当に工場から出たままの状態だったということがわかったんです。なので、内装のフロアマットも60年前のモノなんですよ」。
まるでタイムリスリップをしてきたかのような個体を目の前に、図々しくエンジンルームを覗かせて頂くと、初期型の特徴ともいえる遮音効果をもたらすスポンジ(!)が残っていた。
「山梨県でクラシックカーのレストアなどを行っている【復元カレラ】の社長に状態を説明すると『エンジンルームのスポンジが残っているのは奇跡だよ!』と言われました」。
まさにサバイバーと呼ぶに相応しい個体だった
諸井さんの手元に来た後に車検を取得するために整備を行ったが、最初のオーナーが購入したとみられる、ほとんどの部品が付属されていたため動かすまでに苦労をしなかったという。「キャブレターがアルミ地むき出しになっていて見窄らしい」と諸井さんは話すが、レストア部品ではなく当時の新品部品を使用して動かしているということだけでも凄いこと。なお、経年劣化していた一部の部品はマツダから出ていたこともあって、無事動かすことができたようだ。
折角なので細部を見たいとわがままを言い燃料タンクやスペアタイヤなどが入っているフロントフードを開けて頂くと、おもわずハナヂが出そうになった。マツダのロゴペイント部分こそ少し禿げていたが、ビニールカバーに包まれたスペアタイヤはまるで当時からタイムスリップをしてきたかのような姿のまま残っていた。まさにサバイバーか生きた化石かというほどのもので、これを見られただけでも十分な価値がある。
こうしたクルマが見られるのもイベントならではといえる。レストアが全てではなく、極力部品を修理して当時の姿のままを残し、1台でも多くのクラシックカーが現在から未来へと文化として伝わっていってくれることを願いたい。