前方に上がるスーパーカー御用達ドア
ガルウイングドアの変形タイプをもうひとつ。「マクラーレン・F1」など多くのスーパーカーが採用するのは、ドアが前方に持ち上がり内側が下向きに開く「バタフライドア」という方式だ。
ランボルギーニのシザースドアにも似たこの方式は、ドア全開時に、正面から見たフォルムが蝶が羽を広げたような姿になることからネーミングされたもの。
マクラーレンでは、1991年に登場した6.1L・V12気筒を搭載したF1のほかに、2017年に発売された4L・V型8気筒エンジンの「720S」などが採用している。
また、フェラーリでも、創業55周年を記念して限定販売された「エンツォフェラーリ」(2002年発売)や、初の市販ハイブリッドカーである「ラ フェラーリ」(2013年発売)などがこのドアを装備。
ほかにも、メルセデス・ベンツの「SLRマクラーレン」(2003年発売)など、ランボルギーニを除く多くのスーパーカーにこの方式が取り入れられている。
バタフライドアを装備するスーパーカーが多いのは、「ポルシェ・911GT1」などグループCのレーシングカーにも採用例が多かったことも理由のひとつだろう。レーシングカーと同様のドアを装備すれば、ドライバーは乗り込むだけで、レースの雰囲気やを満喫できることは間違いない。
また、ドアを上げたクルマの姿が優雅に見えることも、バタフライドアが多く採用される要因だろう。究極の高級スポーツカーであるスーパーカーは、スポーティさだけでなく、ラグジュアリー感や独自の個性を出すことも重要だからだ。それだけ、このドア方式には人を惹きつける力があるといえる。
顔面がドアだったイセッタ
次は、とびっきり個性的なドア開閉方式を採用したクルマを紹介しよう。イタリアのイソ社が1953年に発売したミニカー(超小型自動車)「イセッタ」は、なんと、クルマのフロントフェイスがドアとして開閉し、前から乗り降りする方式を採用していたのだ。
丸い卵形の車体と曲面ガラスを採用した外観が、まるで泡のように見えることから「バルブカー」という愛称を持つこのクルマ。エンジンには、単気筒ながらピストンを2つ持つというユニークな構造の236cc・空冷2サイクルを搭載。室内には大人2人が乗車できるベンチシート、ルーフには巻き上げ式キャンバストップを採用するなどで、おしゃれな装備も人気のモデルだった。
そのイセッタが最も個性的だったのが、前述のドア。冷蔵庫のようなノブを回すとフロントフェイスと兼用のドアが開き、乗り降りが可能。ハンドルはフロント部の内側に固定されているため、ドアを開くと一緒に出てくるという、まるでおもちゃのような作りだった。
イセッタは、発売3年後にドイツのBMW社がライセンスを取得し、自社のバイク用4サイクルエンジンを搭載し1963年まで生産された。
その後、スイスのマイクロモビリティ社がそのスタイルにインスピレーションを得て、丸味を帯びたボディと、同様のドア方式を取る2人乗り小型EV「マイクロリノー」を開発。2019年の東京モーターショーにも展示されたので、覚えている方もいるだろう。
現在は、新しい外観のアップデート版「マイクロリノー2.0」も製作され、日本も含めた世界中で販売される予定だ。