GRヤリスの凄さを実感した
2020年の東京オートサロンでデビューし、大阪オートメッセで「GRヤリス ラリーコンセプト」を披露、既に納車も始まっているGRヤリスは「よくぞこんなクルマを」と言える凄いクルマである。1.6Lターボ+4WDとなるGRヤリスの「RZハイパフォーマンスファーストエディション」を手にした筆者として、GRヤリスの凄さを解説していこうと思う。
WRC参戦の究極的ベース市販車
まずはGRヤリスが生まれた理由だが、それは2017年から復帰したトヨタのWRC参戦のため、有利なベース車を持つためである。
WRCのトップカテゴリーとなるWRカーのベース車の条件は、連続する1年間に2万5000台生産した全長4000mm以下のモデル、つまりコンパクトカーとなっている。だから、これまでの5ドアのヤリスのスポーツモデルがあればそれで構わないと言えば構わないのだった。
しかしトヨタは、競技においては空力性能を含め有利な、後方へ行くにしたがって下がっていく、ルーフラインを持つ3ドアボディとなるGRヤリスを市販することを決断。何よりも実用という意味では必要性が薄いこんなクルマを市販化したことが凄いのだ。
トヨタは90年代のセリカGT-FOURを最後にスポーツ4WDがなくなっていたこともあり、スバルや三菱自動車のようなノウハウは何も残っておらず、その開発過程は悪戦苦闘の日々だったという。その経験不足はテスト現場で現れた課題に対しすぐに手を加えるという、モータースポーツの現場のような開発体制で補われ、GRヤリスはスタートから約3年という短期間で市販化された。
3ドアGRヤリスは5ドアのヤリスとは別物
クルマの土台となるプラットホームは、クルマの前半部分はトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)- Bという5ドアのヤリスと共通のものだが、クルマの後半はカローラやプリウスなどに使われる1クラス上のTNGA-Cを使っている。
さらにボディ外板もルーフは軽量高剛性であるカーボン、ボンネット、ドア、バックドアは軽量化のためアルミという贅沢さ。ヤリスという車名ながら5ドアのヤリスと共通するものはヘッドライトとリアコンビランプ、ダッシュボードくらいということで、要するに別のクルマである。
ちなみにGRヤリスの1.6L3気筒ターボエンジンの1618ccという排気量は、国際ラリーのR5と呼ばれる上級カテゴリーの制限となる1620ccギリギリとなるものだ。またインタークーラーの3.7Lという冷却スプレーの容量も、一例に過ぎないが特筆もの。冷却スプレーだが、モータースポーツラリーにおいては純正装着されていれば容量の変更は可能で、ジムカーナでは後続車への悪影響もあり使用不可ということもある。そこで「ダートトライアル1本に持てばいい」とダートラ競技のタイムアタック時の必要最小限の観点から逆算された容量を導いたのだという。これらモータースポーツでの使用を意識したところが満載なのである。
そしてGRヤリスは、量産車ながら精度の高さを追求するため、ベルトコンベアを使ったライン生産ではなくクルマがリフトに乗って動くセル生産という方式を取っている点も大きな特徴だ。
こうして誕生したGRヤリスに筆者は1カ月3000km以上乗ったが、GRヤリスは今までのトヨタのスポーツモデルの良さを結集した素晴らしいクルマに仕上がっており、「内容を考えれば400万円を超える価格もリーズナブルで、買って良かった」と確信している。
GRヤリスがWRCなどの国際ラリーに参戦するには前述したホモロゲーションと呼ばれる2万5000台の生産証明が必要なこともある。GRヤリスへの応援も含め、興味ある方にはぜひ自分のものにして欲しいものだ。