「大は小を兼ねる」というのは、クルマには当てはまらない
大きいクルマは室内が広いからゆったりと乗れ、荷物もたくさん積め、高速域での安定性が高くて長時間の高速道路移動でも疲れにくい。そういった長所がある一方で、細い道では苦労するし、狭い駐車場には入れられない。重量がかさみ、エンジンが大きくなりがちなぶんだけ燃費だって悪化しがちだ。だから、「大きければすべてがいい」とはならない。小さいクルマもなくてはならない存在なのである。
国土が狭い日本の自動車メーカーは小さなクルマを作るのも得意だ。「スズキ」や「ダイハツ」といった小さなクルマを中心とするメーカーが存在するほどである。しかし、なかにはヒットしなかった「小さいクルマ」も存在する。今回は、そんなクルマの紹介と、ヒットしなかった理由に迫ってみよう。
当時の実用性は「ツイン」とは別だった
ここ20年ほどで市販された小さすぎる国産車といえば、2003年から2005年にかけて販売された「スズキ・ツイン」。リヤシートすら諦めて長さを縮めて実現した全長は2735mmで、一般的な軽自動車より50cm以上短い。駐車場を有効活用できる省スペースが特徴で、ガソリン車で26.0km/Lという当時としては驚異的な低燃費も自慢。ボトム価格はわずか49万円(税別)で、量産軽自動車で初となるハイブリッド車を用意するなど意欲作だった。
しかし販売面では振るわず販売期間はわずか3年程度だ。そもそも月販目標台数200台とかなり控えめな計画でありスズキにとっても「実験」だったのだろう。
人気が盛り上がらなかった理由はズバリ……小さすぎたことだろう。志は高い。しかし、小さいといっても多くのユーザーは「アルト」程度のサイズは必要と考えていたのだ。「実用性を削ったツインほどストイックな小ささを求めていない」ということ。それが、小さすぎるクルマがヒットしない理由にあることは、以下紹介するすべてのクルマに当てはまると考えられる。
軽より短いコンパクト「iQ」
トヨタは2008年、リヤシートを備えながらも全長2985mmという驚異的な短さの「iQ」を発売。これはコンパクトセダン「プレミオ」の同時期のモデル全長のわずか2/3程で、軽自動車枠より40cm以上も短い。思い切ったパッケージングだ。
しかし……売れなかった。顧客はそこまでの小ささを求めてはいなかったのである。販売店には、そんなiQの隣に、より実用的に使える「ヴィッツ」や「パッソ」が並んでいる。しかも価格だってiQよりも安い。どっちを選ぶかは顧客の自由だ。
スポーティで小さい「R1」だが世間は「広さ」になびいた時代
2005年から2010年に販売された「スバルR1」もまた小さなクルマだ。小さいことにこだわって車体は軽自動車枠よりもひとまわり小さく設計。ボディは3ドアで、室内の広さよりも気軽に運転できることやジャストサイズの感覚を重視していた。
いっぽうで4気筒エンジンや4輪独立サスペンションなど、走りには凝っていた。走行性能も高く、サイズもクラスを超えたスポーツカーといっていいくらいだ。
しかし……多くの人の共感は得られなかった。軽自動車のトレンドが「室内の広さ」になっていて、消費者は小さな車体よりも広さを求めたからだ。