エンジンを組み立てられるのは選ばれし者
良いエンジンを造り上げるには良い人材が必要だ。AMGは何よりも人を大切にしている。何故なら、AMGエンジンを造るのは“人”だからだ。AMGエンジンを組み立てるマイスターになるには、かなりの経験と匠の技を備えていなければならない。
各自整備学校で3年間みっちり勉強し、その中でもトップクラスの者が選抜され、半年の研修期間を経て、AMGの試験を受ける事ができる。合格して入社後、先輩メカニックや上司から十分な研修を受け、資格を取得したマイスターだけがエンジンの組み立てを許されるのだ。
最低でも5年以上、しかも全てにおいて優秀なメカニックでなければ、ここでは働けないと言われている。しかもエンジンに対する情熱を持ち、感覚を研ぎ澄まし、そして機械では測れないレベルの精度を妥協せずに追求する精神も持ち合わせていなければならない。
メルセデスAMGの選ばれたマイスターだけがエンジンの組み付けを許される理由は、手組みでないと出せない領域があるからだ。確かに、生産ラインを流れてくる機械に、流れ作業で人間やロボットが部品を組み付けて行くのは量産品を造る上で効率的である。
しかし、エンジンは繊細な機械の塊だ。特にAMGのエンジン部品は、世界最高水準の精度を誇るメルセデス・ベンツが定めた許容範囲のさらに半分という驚くべき高精度を追求。わずかなズレやゆがみでも、本来エンジンに求められるパフォーマンスが発揮できなくなるからである。
メルセデスAMGは手組みによって、そのわずかなズレ、ゆがみやクリアランスの微調整まで含めて妥協なく正確に組み付け、量産レベルをはるかに超えた精度の目標値を満たしている。この手組み作業をもっとも効率的であると実践してみせるところが、メルセデスAMGのじつに素晴らしい体制といえる。
マイスターによる作業はすべて記録される
工場内は塵や埃がなく清潔でなければならない事が必須で、じつに清潔だ。事実、この清潔な工場で各マイスターにはエンジンと工具類を載せるキャスター付きカートが与えられ、天井から吊り下げられた工具が良い例だと言える。例えば、この最新鋭の工作機械でボルトが仮に斜めに入った場合、わずかな圧力を感知して工作機械が即座に止まるシステムだ。
AMGでは、いつ、誰が、どの部分を作業して、何をしたか、すべて工具と連動で記録されている。もちろん、締め付けトルクなどの数値データも記録されているので、後々わかることもあり、各メカニックが責任を持って組み立てている。つまり、性能云々よりも信頼性が第一主義なのである。
こうして組み上げられたエンジンのヘッドカバーには先述のとおり、最後に担当のマイスターの名前が彫り込まれたプレートが貼り付けられる。メルセデス・ベンツの最上級グレードAMGエンジン開発と作業に携わるマイスターの誇りと強い意志が込められているとも言える。